9月3日に菅総理が自民党次期総裁選(9月29日投開票)不出馬を表明。
本書は、前著『長期政権のあと』(祥伝社新書、2020)に続いて、
タイムリーな出版となった。
佐藤優/山口二郎『異形の政権ー菅義偉の正体』
(祥伝社新書、2021)を読む。
「はじめにー日本の危機を象徴する政権」(佐藤)から引用する。
山口二郎先生は、立憲民主党が共産党を含む野党共闘で
政権交代を行うことが適切な処方箋と考えて
論陣を展開するとともに市民運動を組織し、活動している。
いっぽう私は、コロナ禍では
混乱を避けることが第一義的課題と考えている。
政権交代を避け、与党と官僚機構の綱紀粛正(こうきしゅくせい)を
実現させる努力を続けることが、現状では最適解と信じている。
(略)
私がモスクワにいる間(引用者注:1987年8月〜1995年3月)、
日本ではポストモダンの嵐が吹き荒れた。
その結果、価値相対主義が知識人の主流になっている。
思考実験ならそれでもいいが、現実政治に関しては、
啓蒙的理性にもとづく対話によって代表民主制を機能させることを
最後まであきらめてはいけないと私は考えている。
この点で、山口先生と私は共通の土俵で努力している。
(略)
(pp.5-6)
続いて「おわりにー民主主義を取り戻すために」(山口)から引用する。
東京オリンピックと新型コロナウイルスの感染拡大が重なる
2021年8月はじめに、この「おわりに」を書いている。
世界最高レベルのスポーツがもたらす興奮と、
最悪のコロナ感染という恐怖が入り混じる未曾有(みぞう)の状況のなか、
菅義偉首相は現状をどう考え、これから何をしたいのか、
明確な言葉を発していない。
政治という営(いとな)みに、
国民の生命を救うための果敢な行動を期待する者には、
欲求不満が溜まる状況である。
その意味で、菅首相が「異形の権力者」であることは、
本書の議論で示したとおりだ。
(略)
佐藤さんと私では、権力への向き合い方・かかわり方が大きく異なる。
しかし、私たちにはシニシズム(冷笑主義)を拒絶し、
理性と啓蒙の立場で政治のあるべき姿を論じるという共通点がある。
権力の内側・外側の両方から、権力の異形性を明らかにすることは、
民主主義を取り戻すために必須の作業だ。
外交政策にコミットした佐藤さんによる権力の実相に関する分析から、
さまざまなことを教えられた。
佐藤さんと話すと、人間の知の営みの展開を
千年単位で解き明かしてくれる恩恵に与(あずか)ることができる。
(略)
(pp.201-203)
編集:飯島英雄(祥伝社)、戸井薫(ライター)
現状分析・将来展望に異なる意見を持つ二人だからこそ、
その真摯な対話が現在および、これからの日本の政治を考える際のヒントになる。
(2020年8月10日出版。同年8月28日に安倍首相が辞任を発表)