クリッピングから
週刊ダイヤモンド2020年2月22日号
知を磨く読書(佐藤優/第333回)
テクノロジー大国という幻想
山本康正著『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』は、
日本の近未来を予測するための必読書だ。
<テクノロジーに関して
日本は世界をリードする存在であるという言説は、
残念ながら、もはや幻想に近い。
バブル時代のお金があふれていた時期はともかく、
日本発のテクノロジーが
いきなり世界の最先端に立つケースはほとんどない。
ある瞬間の、ある一分野を切り取って
世界一だと言うことはいくらでもできるが、
未来を左右する基幹テクノロジーになっているものはほとんどない。
メインストリームになれば、勝手に国境を越えていくからだ>
という山本氏の指摘は正しい。
かつてのソニーやホンダはベンチャー企業だったから
さまざまなイノベーションができた。
日本だけでなく、成熟した資本主義国の老舗企業から
イノベーションは生まれない。
努力すれば日本が再びテクノロジー大国になるという幻想から覚め、
既存の中小企業の経営合理化を図る方が
現実的な経済成長政策と思う。
確かに現在の世界では
アメリカ、中国の二超大国がテクノロジーを牽引している。
どちらにもイノベーションを生み出す国家的下地が存在する。
一方イスラエルが小国でありながら、
特定分野に焦点を合わせてこの競争の狭間で生き抜いているのは
日本の近未来にとって参考になるのではないか。
テクノロジー大国になるという幻想から覚めることが
まず必要なマインドセットだろう。
著者、評者のその主張には賛成だ。
副島隆彦さん近著『米中激突 恐慌』巻末に掲載された
日本の「5G、6Gに負けない超先端技術を持つ優良企業」にも注目していきたい。