ブロガー友だちのharuharuyさんが
毎年年末になると「2008年極私的ベスト」を発表する。
書籍、映画、舞台芸術、落語・演芸、アート・イベントと
実に多彩なリストで、僕はいつも興味津々である。
本業のさなかによくこれだけ観たり読んだりできるもんだと
感心するばかりだ。
プロデューサーでこれだけの量の作品を
リアルタイムで見続けている人は
少なくとも日本では他に知らない。
http://haruharuy.exblog.jp/9996842/
読み落とした作品、見落とした作品を拾い直すのに役立つ点でも
haruharuyさんのベストは実用的である。
舞台芸術などそのとき限りの作品は追体験しづらいが、
松竹のシネマ歌舞伎(山田洋次「人情噺文七元結」)などの試みが
広がっていけば、いずれは可能になっていくだろう。
haruharuyさんの極私的ベストには遠く及ばないが、
デジタルノート版の2008年極私的ベストを発表してみたい。
初めての試みである。
書籍だけは量的にharuharuyさんに辛うじて匹敵しそうだが、
その他のカテゴリーでは遠く及ばない。
僕の現在の時間のやりくりと関心の範囲では、
まぁ、こんなところが限界である。
ともあれ、自分が勉強になったり楽しんだものは
人と共有したくなるのが人情というものだ。
時間が許すときにお楽しみください。
(順位は特につけていません)
書籍
梅田望夫「ウェブ時代5つの定理」
齋藤孝/梅田望夫「私塾のすすめ ここから創造が生まれる」
梅田望夫「生きるための水が湧くような思考」(ウェブブック)
海部美知「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」
水村美苗「日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で」
会田雄次「アーロン収容所 西欧ヒューマニズムの限界」
陳舜臣「実録アヘン戦争」
伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」
伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」
伊坂幸太郎「死神の精度」
与謝野馨「堂々たる政治」
リチャード・テドロー/有賀裕子
「アンディ・グローブ(上)修羅場がつくった経営の巨人」
「アンディ・グローブ(下)シリコンバレーを征したパラノイア」
アンドリュー・S・グローブ「僕の起業は亡命から始まった」
岡田芳郎「世界一の映画館と日本一のフランス料理店を
山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたか」
野口勲「いのちの種を未来に」
Tommy「妄撮」(写真集)
(ひとこと)
梅田望夫さんの著作が素晴らしいのは内容はもちろんだが、
そこで紹介された本をさらに勉強することができる発展性にある。
海部美知さん、水村美苗さん、アンドリュー・S・グローブの新旧作は
そうした道を辿って読んでいった。
とりわけ梅田さんが(たぶん日本で初めて)
ウェブブックとして著した「生きるための水が湧くような思考」は
梅田さんのこれまでの著作活動の集大成である。
それをウェブ上で誰でも無料でアクセスして
読めるようにした点が革新的試みであった。
お金のない、けれども向学心のある若者やシニアは
この本を読まぬ手はない。そのためのウェブブックだ。
(「生きるための水が湧くような思考」へは次のurlからどうぞ)
http://www.mochioumeda.com/musings/
映画・映像芸術
辻川幸一郎「Cornelius/Fitsong Beep It」
宮崎駿「崖の上のポニョ」
ターセム「落下の王国」
山田洋次「人情噺文七元結」(シネマ歌舞伎)@ソニーPCL
ラッセ・ハルスドレム「やかまし村のこどもたち」
鈴木勉「胡同の一日」
テオ・アンゲロプロス「霧の中の風景」
テオ・アンゲロプロス「ユリシーズの瞳」
テオ・アンゲロプロス「こうのとり たちずさんで」
市川準「buy a suit スーツを買う」
(ひとこと)
ターセム、鈴木勉さん、市川準さんの作品の共通点は
監督たちがテレビコマーシャルの仕事を生業にしてきたことと、
いずれもプライベート・フィルムであることだ。
広告制作者たちは日頃は
クライアントや広告会社の注文によって映像を作る。
しかし、もし、自分たちの資金で作りたいものを作るとしたら
いったいどんな作品を作りたいのか。
その質問への答えがこれらの作品であった。
スタンフォード大学卒業式での伝説となったスピーチ。
「自分が本当にやりたいことを見つけて、それをやれ。
人生は短い」。
スティーブ・ジョブズのメッセージを僕は思い出す。
山内ケンジ/深浦加奈子「新しい橋」@下北沢駅前劇場
野田秀樹「The Diver」@世田谷パブリックシアター
イッセー尾形(3月公演)@原宿クエストホール
イッセー尾形(5月公演)@原宿クエストホール
イッセー尾形「これからの生活2008」@原宿クエストホール
イッセー尾形「これからの生活2008 冬の新ネタ」
@原宿クエストホール
(ひとこと)
「新しい橋」は女優・深浦加奈子さんの遺作となってしまった。
芝居がはねた後、友人たちと遅めの夕食を取ることになり、
僕も深浦さんと同席した。
深浦さんから山内ケンジさんの演出方法を聴き、
なぜああいった芝居が生まれるか、理解を深めた記憶がある。
まさか、これが深浦さんの最後の作品になるとは、
そのとき少しも思わなかった。
イッセーさんの公演は渋谷ジァンジァンの時代からずっと観ている。
今年は6作観たが、ベストに残したのはいずれも一人芝居だった。
ドイツからのゲスト、篠原ともえさんとの共演、
素人と一緒に舞台を創りあげる試みなど
イッセーさん、演出・森田雄三さんの探究心は尽きることがない。
アート・イベント
Tokyo Copywriters' Street Live Vol.1@青山曼荼羅
野口勲「タネから野菜を考える」(講演)
@カタログハウスの学校
TIAAセミナー/プロジェクター田中耕一郎(講演)
@青山ダイヤモンドホール
小川隆之「New York Is」(小川隆之さんを偲ぶ会)
@セルリアンタワー東急ホテル
(ひとこと)
野口勲さんの講演は、
植物の種が生命とつながり宇宙につながるという壮大な物語だった。
野口さんはそもそも虫プロで働いていた方で
手塚治虫さんが名作『火の鳥』を発表したとき
手塚さん付きの編集者だったのだ。
野口さんはいま飯能で種屋の三代目を継ぎ、
主にネット販売で日本の伝統的種である「固定種」を
絶滅から防ぎ広めてゆく仕事に専念している。
我らが秘湯会の畑には
野口さんの固定種の種である絹サヤがすくすく育っている。
このまま順調であれば5月に花を咲かせ、実をつけ、
後に種を残してくれる。
現在、世界を席巻しているF1から収穫した種は
蒔いてもまともな作物ができない。
一代限りの、インポテンツの種なのだ。
2009年も素晴らしい作品に出会えますように。