若泉敬『他策ナカリシヲ信ゼムト欲スー核密約の真実』
(新装版2009/初刊1994)を読む。
1972年5月15日に実現した沖縄返還交渉に当たって、
外務省ルートとは別に国家安全保障問題担当大統領補佐官キッシンジャーの
カウンターパートを務めた男の残した書である。
佐藤総理の命を受けた若泉の存在は知られることなく、
歴史の闇の彼方に葬られるはずだった。
- 作者: 若泉敬
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/10/29
- メディア: 単行本
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本土並みの返還を要求する日本と
緊急時の核持ち込みを確保したいアメリカの間で、
佐藤総理とニクソン大統領が世紀の大事業実現を図る。
「核密約」は沖縄返還実現のための必要悪だったことを
当事者である若泉は誰よりも自覚していた。
その思いで陸奥宗光の書から採った一節が書名となった。
- 作者: 陸奥宗光,中塚明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1983/07/18
- メディア: 文庫
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若泉は自らの体験・記録とともに
多くの関係者の証言・回顧を丹念に集める。
歴史の証言者たることを望み、
できうる限り客観性を重んじる姿勢で本書をしたためる。
同時に国家秘密を漏洩した者の責任をとって
英語版刊行を果たした1996年、自ら命を絶つ。
これは京都産業大学教授であった若泉が
生命を賭して書いた一冊である。
- 作者: Wakaizumi Kei,John Swenson-Wright
- 出版社/メーカー: Univ of Hawaii Pr
- 発売日: 2002/04
- メディア: ハードカバー
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沖縄は依然として基地移転問題の解決がつかず混迷を極める。
そもそも戦争で失った領土を外交交渉で回復すること自体、
世界史で希有のことである。
それがどうして実現したか、本書を読むことで徐々に理解が深まる。
その歴史に密やかに貢献した男の存在を
僕たちは決して軽んじてはならないと思うのだ。
副題の「核密約の真実」は
新装版刊行時に編集者がつけたと思われる。
民主党への政権交代で騒ぎになった沖縄の核について
本書は歴史の事実とともに日米の考え方のギャップを
克明に記している。
守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(2010)とともに
日米関係と沖縄について深く考えるための必読書。
- 作者: 守屋武昌
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/07/09
- メディア: 単行本
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(文中敬称略)