若泉敬『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(1994/2009新装版)


若泉敬『他策ナカリシヲ信ゼムト欲スー核密約の真実』
(新装版2009/初刊1994)を読む。
1972年5月15日に実現した沖縄返還交渉に当たって、
外務省ルートとは別に国家安全保障問題担当大統領補佐官キッシンジャー
カウンターパートを務めた男の残した書である。
佐藤総理の命を受けた若泉の存在は知られることなく、
歴史の闇の彼方に葬られるはずだった。


他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス 〈新装版〉

他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス 〈新装版〉


本土並みの返還を要求する日本と
緊急時の核持ち込みを確保したいアメリカの間で、
佐藤総理とニクソン大統領が世紀の大事業実現を図る。
核密約」は沖縄返還実現のための必要悪だったことを
当事者である若泉は誰よりも自覚していた。
その思いで陸奥宗光の書から採った一節が書名となった。


新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録 (岩波文庫)

新訂 蹇蹇録―日清戦争外交秘録 (岩波文庫)


若泉は自らの体験・記録とともに
多くの関係者の証言・回顧を丹念に集める。
歴史の証言者たることを望み、
できうる限り客観性を重んじる姿勢で本書をしたためる。
同時に国家秘密を漏洩した者の責任をとって
英語版刊行を果たした1996年、自ら命を絶つ。
これは京都産業大学教授であった若泉が
生命を賭して書いた一冊である。


The Best Course Available: A Personal Account of the Secret U.S.-Japan Okinawa Reversion Negotiations

The Best Course Available: A Personal Account of the Secret U.S.-Japan Okinawa Reversion Negotiations


沖縄は依然として基地移転問題の解決がつかず混迷を極める。
そもそも戦争で失った領土を外交交渉で回復すること自体、
世界史で希有のことである。
それがどうして実現したか、本書を読むことで徐々に理解が深まる。
その歴史に密やかに貢献した男の存在を
僕たちは決して軽んじてはならないと思うのだ。



副題の「核密約の真実」は
新装版刊行時に編集者がつけたと思われる。
民主党への政権交代で騒ぎになった沖縄の核について
本書は歴史の事実とともに日米の考え方のギャップを
克明に記している。
守屋武昌『「普天間」交渉秘録』(2010)とともに
日米関係と沖縄について深く考えるための必読書。


「普天間」交渉秘録

「普天間」交渉秘録


wikipedia:若泉敬


(文中敬称略)