カンヌのある止まり木


僕の友人である向井さんは
映像コンテンツ制作会社社長である。
向井さんの会社スプーンはここカンヌで
7年連続でアパートメントを借りオープンハウスにしている。
向井さんは今年カンヌ入りしていながら
実は一度もカンヌ広告祭の会場に足を運んでいない。



  (目印を貼っておくと
   毎朝そうじのおじさんがはがしていく)


彼の名誉のために書いておくと、
それは向井さんが怠惰だからでも、
広告が嫌いになってしまった訳でもない。
スプーンのオープンハウスは
日本から参加している老若男女のための
「止まり木」の役割を果たしている。



  (広々としたキッチンで料理ができる)


スプーン社員が勉強のためにここで宿泊して会場に通うだけでなく、
日夜、さまざまな人が休憩したり、酒を飲んだり、
かき揚げどんぶりや稲庭うどんをご馳走になったり、
あげくの果てに深夜、既に眠りについていた会長Yさんに
「うるさいっ!」と怒鳴られたりしている。
それほど愉しい、憩いの場所なのだ。



   (スプーン社長・向井さん)


向井さんは今年、このスプーンハウスの主人なので、
誰がいつなんどき現れてももてなすことができるように
会場にも行かず、ここにいるのだ。
深夜にはパジャマ姿で客人を迎えることもある。



神さまは粋なことをなさるもので、
そんな向井さんのためにすばらしいゲストを用意した。
雑誌「広告批評」の元編集長である河尻さんが
このスプーンハウスに滞在して仕事を続けている。
河尻さんは広告コミュニケーションに関する
日本有数のキュレーターである。



   (寸暇を惜しんで仕事を続ける河尻さん)


つまり、向井さんはスプーンハウスにいながらにして
今年カンヌでなにが起きているか、
河尻さんの解説・洞察付きで毎日インプットしているのだ。
カンヌにいて、カンヌに行かず、カンヌを知る人。
それが向井さんである。



   (オープンハウスは市場にも近い。材料を仕入れるのに重宝)


この7年、世界経済に呼応して日本経済も荒波に飲まれた。
カンヌでのネットワーキングのためのパーティ、オープンハウスも
日本発のものは激減した。
その中でみなさんに
コンスタントに「止まり木」を提供しているスプーンと向井さんは、
「カンヌ・日本貢献賞」を贈る価値がある仕事をしている。