大王が上目づかいでこちらを見ている


大王が上目づかいでこちらを見るときは
なにかを訴えるときだ。
これまでの経験によれば
尿道にミネラルの結晶が詰まりオシッコが出なくなったときだ。
放置すれば全身に尿毒が回り48時間以内に落命するので
「オシッコをバカにしてはいけない」が我が家の教えになっている。


こないだうっかり目を離した隙に
処分したはずの古い焼き海苔を大量に食われたのだ。
大王は海苔ジャンキーなのである。
体内にはミネラルが不必要に蓄積しているに違いなかろう。



詰まってからDB先生の元に連れて行って治療するより、
疑いを持ったときに診てもらうに限る。
二匹の最新動向を伝える同居人のメールを勤務先デスクで読み、
DB先生の診察を予約。
先生本人が電話口に出て、19時20分の枠を押さえた。
最後の一枠だった。
残業とは基本無縁のシニア契約社員の機動力は、
猫の健康管理には役立つ。
夕方M歯科での僕の治療を済ませて一目散に帰宅。



「オラはどこも悪くない!」
と言い張る大王をカゴに入れ
ママチャリ2号で出かける。
膀胱を調べ、それなりには溜まっていたオシッコを
金属の器に出させようと先生が試みる。
いつになく吠え暴れる大王。
オシッコは一滴たりとも出てこない。
詰まっているのか、ここでは出したくないだけか。


見れば先生の右腕は既に傷だらけで血も出ている。
獣医師は楽な仕事ではない。
この状態でムリにカテーテルを入れれば、
痛いし、入れたことで尿道炎になる恐れもある。
なにもないかもしれないのに、それはあんまりだ。
先生とその場で相談し、
きょうは何もせず様子を見ることにした。


帰宅すれば大王はトイレにしゃがみ、
量は物足りないものの排尿に成功していた。
先生とは言え他人にオシッコを絞られるのはまっぴら御免で、
自分でするもんね。
その気持ちは分かる。



でもね、だったらさ、
もう少し早めにしてもらう訳にはいかないかね。
先生の右腕にはしばらく君のひっかき傷が残るんだぜ。
勲章じゃあるまいし。