腕は立つ、けれど威圧感がなくて話しやすい。
そんな精神科医を掛かり付けにしたような5作品の短編集。
村上春樹『東京奇譚集』(新潮社、2005)を読む。
佐藤優さんが読書ノートでこの短編集に収められた書き下ろし、
「品川猿」を取り上げている。
興味を持ち、仕事帰りに日比谷の図書館で借りてきた。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/09/15
- メディア: 単行本
- 購入: 5人 クリック: 95回
- この商品を含むブログ (552件) を見る
あるときから、自分の名前を忘れるようになった主人公みずきが
40代後半のカウンセラー坂木哲子の力を借りて原因に迫る物語。
品川区の下水道に棲みついた猿が解決の鍵を握っている。
その鍵はさらにみずきの深層心理につながっていた。
(同居人謹製。豚肉、白インゲン豆、ウィンナーのカレー)
僕は今週、仕事関連の二つのサイトで
見たい場所にたどり着けず難儀していた。
それぞれプロフェッショナルに相談し、
ひとつは解決、もうひとつは70%程度の解決となった。
デジタルの小部屋はそれぞれがIDとパスワードを要求してくる。
ユーザーである人間より、IDとパスワードの方が偉く思えるほどだ。
自分の名前を失いかけたみずきと
デジタル迷路で途方に暮れていた僕では状況が違う。
けれど、このふたつの場面は
地下水脈でつながっているような感覚がある。
今を生きるもどかしさ、とでも言うのか。
The Early Stories of Truman Capote (Penguin Modern Classics)
- 作者: Truman Capote
- 出版社/メーカー: Penguin Classics
- 発売日: 2017/06/01
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログ (2件) を見る
そうした感覚を文章で作品に昇華できる作家は貴重だ。
僕にとって、村上春樹とトルーマン・カポーティの短編群は、
ときどき尋ねたくなる精神科医だ。
腕は立つが、気安く話すことができる。
一足飛びの解決が見つからなくとも、
肩に乗っている不安の質量を、自分で認識することができる気がする。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/11/28
- メディア: 文庫
- 購入: 6人 クリック: 84回
- この商品を含むブログ (317件) を見る
wikipedia:en: Truman Capote