村上春樹『東京奇譚集』(新潮社、2005)


腕は立つ、けれど威圧感がなくて話しやすい。
そんな精神科医を掛かり付けにしたような5作品の短編集。
村上春樹東京奇譚集』(新潮社、2005)を読む。
佐藤優さんが読書ノートでこの短編集に収められた書き下ろし、
品川猿」を取り上げている。
興味を持ち、仕事帰りに日比谷の図書館で借りてきた。


東京奇譚集

東京奇譚集


あるときから、自分の名前を忘れるようになった主人公みずきが
40代後半のカウンセラー坂木哲子の力を借りて原因に迫る物語。
品川区の下水道に棲みついた猿が解決の鍵を握っている。
その鍵はさらにみずきの深層心理につながっていた。



(同居人謹製。豚肉、白インゲン豆、ウィンナーのカレー)


僕は今週、仕事関連の二つのサイトで
見たい場所にたどり着けず難儀していた。
それぞれプロフェッショナルに相談し、
ひとつは解決、もうひとつは70%程度の解決となった。
デジタルの小部屋はそれぞれがIDとパスワードを要求してくる。
ユーザーである人間より、IDとパスワードの方が偉く思えるほどだ。


自分の名前を失いかけたみずきと
デジタル迷路で途方に暮れていた僕では状況が違う。
けれど、このふたつの場面は
地下水脈でつながっているような感覚がある。
今を生きるもどかしさ、とでも言うのか。


The Early Stories of Truman Capote (Penguin Modern Classics)

The Early Stories of Truman Capote (Penguin Modern Classics)


そうした感覚を文章で作品に昇華できる作家は貴重だ。
僕にとって、村上春樹トルーマン・カポーティの短編群は、
ときどき尋ねたくなる精神科医だ。
腕は立つが、気安く話すことができる。
一足飛びの解決が見つからなくとも、
肩に乗っている不安の質量を、自分で認識することができる気がする。


東京奇譚集 (新潮文庫)

東京奇譚集 (新潮文庫)

wikipedia:en: Haruki Murakami
wikipedia:en: Truman Capote