新井紀子『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018)

一読してAI時代の人間の能力を考える
重要な基本書であることが分かった。
佐藤優さんが『週刊東洋経済』連載「知の技法・出世の作法」で
10回に渡って取り上げた理由も理解できた。
新井紀子『AI vs 教科書が読めない子どもたち』
東洋経済新報社、2018)を読む。



「はじめに」にこうある。


   数学の常識として、シンギュラリティ
   (コンピュータの知能と人間の知能が逆転すること:
   「ジャパンナレッジ」より引用)
   が起こり得ないことを説明するために、
   少し難解な数学の話も書きます。
   が、なるべく多くの人にご理解いだだけるように
   わかりやすく説明する努力をしました。
                   (p.005)


「おわりに」からも引用する。


   さて、私が今目指していることは、
   「中学1年生全員にRST(引用者注:著者が開発した
   リーディング・スキル・テストの略)を無償で提供し、
   読解の偏りや不足を科学的に診断することで、
   中学卒業までに全員が教科書を読めるようにして
   卒業させること」です。


   そのことで、最悪のシナリオを回避し、
   AIと共に働くことが不可避な2030年代に向けて、
   日本を「ソフトランディング」させたいのです。
   (略)


   私はこの本の印税は1円も受け取らないことに決めました。
   2018年度からRSTを提供する
   社団法人「教育のための科学研究所」に全額が寄附されます。
   それを原資としてリーディングスキルテストのシステムを構築し、
   問題を作ることで、一人でも多くの中学1年生が
   無償でテストを受けられるようにします。
                     (p.286)


少しだけ不満が残ったのは
段落「一筋の光明」の以下の一節。


   私が今、一番可能性を感じているのは、
   80年代に一世を風靡したコピーライターである
   糸井重里さんが実践している「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」
   という「商い」の在り方です。


   「ほぼ日」は日々大勢が閲覧するウェブサイトであるにもかかわらず、
   広告で稼いでいるわけではありません。
   「ほぼ日手帳」という手帳の他、
   手仕事で作った洋服やセーター、本などを販売しています。
                         (p.274)


AIの可能性と限界、
AIと共存する最強の武器・読解力が
中高生(もしかすると大学生も社会人も)に欠落している危機
という著者が本書で掲げたテーマの大きさの割には
解決策が限定的であるように思えた。


読解力向上の処方箋については
著者は以下のようにも書いている。
期待したい。


   なんとしても、全中高生の平均で
   7割程度の正答率となるような、教育方法の確立が求められます
   (引用者注:上記RSTの得点を指す)。
   次の本では、一つでも2つでも(ママ)、
   科学的根拠に基づいた処方箋を提供できるように努力します。
                          (p.244)


AI万能を喧伝する書物、記事が溢れる中、
安易な主張に流されず、
立ち止まって自分の頭で考える材料として本書は貴重だ。
二日前、紀伊國屋書店に平積みしてあった本書腰巻きによれば
既に15万部を突破した。
広く読者を獲得しつつあるようで、心強い。


wikipedia:新井紀子