AIによる格差の拡大をどう修正するか(新井紀子)


スクラップブックから
朝日新聞2018年10月17日朝刊
新井紀子のメディア私評
AIで失われる仕事 「格差どう修正」深まらぬ議論


   私が読書や書き物をする時、
   隣に置いておく年表がある。
   1996年に出版された「情報の歴史(増補版)」である。
   知識を得た者が他者に伝えることを「情報」という。


   情報の歴史のスタートを象形文字とし、
   締めくくりを人工知能としている点に
   監修者松岡正剛氏のセンスと先見性を感じる。
   (略)


情報の歴史―象形文字から人工知能まで (Books in form (Special))

情報の歴史―象形文字から人工知能まで (Books in form (Special))

(僕もちょうど図書館から借りてきて眺めていたところだった)


   しかし、デジタライゼーションによって
   労働の多くが不要になるとき
   「神の見えざる手」*は機能不全を起こす。
   どのメディアもAIによってなくなる仕事・残る仕事の特集は組んだが、
   一握りの資本家や投資家が世界の大半の富を握り、
   何十%もの人々が労働市場から締め出される
   歪(ゆが)んだ資本主義をどう修正すべきかを模索する議論は、
   なかなか深まっているように見えない。


   そういう中で、急速に注目を集めているのが
   「ベーシックインカム(BI)」だ。
   就労や資産の有無を問わず政府がすべての国民に対して
   最低限の生活を送るのに必要な額の現金を
   定期支給するというアイデアだ。
   (略)


   意外にも、BI賛同者の中に
   超富裕層の名前が結構見つかる。
   IT長者が、「シンギュラリティー
   (AIが人類の知能を超える技術的特異点
   というはやり言葉を喧伝するのは、
   AIやビッグデータによる格差の拡大から
   目をそらす狙いではないかとの、
   数学者キャシー・オニールによる洞察
   (本紙GLOBE10月号)はなかなか鋭かった。
   格差に苦しむ人々の怒りの矛先をかわすのが
   真の狙いなのかもしれない。




NHKでともに出演した孫正義氏コメントにも直言している)


数学者キャシー・オニールの論点を「メディア私評」に取り上げたのは
新井自身が既に考えていたことだったからだろう。
キャシーと新井はTEDで出会い、意気投合した仲だ。
(TEDでのキャシーのスピーチを以下リンクする)



あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠

あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠

Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy

Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy


引用者ノート:


アダム・スミスの『国富論』原文には
invisible handと書かれていて、「神の」の表現はない。
「見えざる手」と訳すのが適当だ。
以下、Japan Knowledge「デジタル大辞泉」から引用する。


   かみ‐の‐みえざるて 【神の見えざる手】
   市場において、各個人の利己的な行動の集積が
   社会全体の利益をもたらすという調整機能。
   アダム=スミスが「国富論」で提唱した。見えざる手。
   →市場原理


   [補説]
   神の見えざる手(invisible hand of God)
   の語で用いられることが多いが、
   「国富論」の原文にはof Godの記述はなく、
   「見えざる手」のみで使われることもある。


   "かみ‐の‐みえざるて【神の見えざる手】",
   デジタル大辞泉,
   JapanKnowledge, https://japanknowledge.com ,
    (参照 2018-10-20)


石橋湛山賞山本七平賞受賞)