基礎研究を支えるハイトラスト研究費

クリッピングから
朝日新聞2019年10月31日朝刊
研究費「人」に託し成果
沖縄科技大学院大 「論文の質」世界9位


  「世界最高水準の研究大学」を目指して政府が2011年に設置した
  沖縄科学技術大学院大学(OIST)が、11月1日に9年目を迎える。
  質の高い論文を生む機関として知名度が上がりつつある。
  基礎研究にふさわしい研究運営の仕組みが生んだ成果だが、
  同時に、退潮著しい日本の研究環境の課題を浮き彫りにしている。


  沖縄県中部、恩納(おんな)村。
  リゾートビーチに近い森の中に、海に臨んで四つの建物が並ぶ。
  働く研究者は教授、准教授ら教員を含め約500人
  40以上の国・地域から集まり、半分以上が外国人だ。
  人数は東大の1割未満と小規模だが、研究分野は脳科学、量子科学、
  海洋生物学と幅広い。


  学部や学科はなく、スパコンやゲノム解読など
  高額の研究機器は集中管理され、熟練した専門職員が支援する。
  「大学全体で共有し、運用のムダを減らす工夫」と
  ロバート・バックマン主席副学長は説明する。


  教員は着任後5年間は必要な研究費を与えられ、自由に使える。
  5年ごとの業績評価で認められれば継続可能。
  倍率が高く、成果に関係なく3〜5年ほどで打ち切られる
  国の競争的研究費とは異なる。
  メアリー・コリンズ研究担当副学長は
  「人を信頼した『ハイトラスト研究費』と呼んでいる。
  政府の寛容な予算措置のおかげ」と話す。


  英ネイチャー誌の発行元は6月、
  質の高い論文に関するランキングを発表し、OISTは9位に入った。
  昨年の論文数のうち、著名な学術誌に載った割合を比べた順位で、
  日本ではトップだ。東大は40位、京大は60位だった。
  (略)


  OISTは科学技術立国をめざす自民党政権が2002年に構想。
  従来の大学のあり方にとらわれず、世界最高水準の研究大学を作るため、
  政治的に配慮された沖縄に立地し、文部科学省ではなく内閣府所管とした。
  世界のノーベル賞科学者9人を集めた顧問会議で


  基礎研究に好ましい組織や運営を一から議論した。
  ランキングで10位以内の機関の多くも、
  OISTと同様に自由に使える研究費を活用している。
  (略)


  軌道に乗ってきたOISTだが、前途は見通せない。
  (略)
  財務省は年間161億円に上るOISTの運営費補助金に目をつけた。
  質の高い論文数を運営費補助額で割った「単価」が
  他の国立大の1.3〜5.4倍だとして「高コスト構造」の改革を求め、
  「沖縄の自立的発展に寄与するには外部資金の獲得が重要」と指摘した。
  外部資金とは運営費補助金意外のお金のことだ。


  まったく新しい組織作りを目指してきたのに、
  他大学と同じ目標を求められたOIST側は危機感を募らせる。
  (略)


  国は財政難の中、国立大への運営費の補助金を削減し、
  自前で稼ぐ「自律的経営」を求めてきた。
  だが、ほとんどの国立大では、
  企業や自治体などからの資金導入は進んでおらず、
  削減分のほぼすべてを国の競争的研究費で補っているのが現状だ。
  (略)
                           (嘉幡久敬)


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沖縄に世界最高水準をめざす大学院大学OISTが
2011年に設置されていたことをこの記事で知った。
40以上の国・地域から選抜された研究者が集まり、
半分以上が外国人であることも興味深い。


ノーベル賞を受賞した日本の科学者がいつも指摘するのは
基礎研究に対する政府の支援が先細りになっている危機感だ。
目先の経済効率だけで判断して基礎研究をないがしろにしていては
科学技術立国はおぼつかない。
嘉幡記者のタイムリーな記事だった。