クリッピングから
朝日新聞2019年12月27日朝刊
池上彰の新聞ななめ読み
萩生田文科相巡る報道
「端境期」発言 反応せよ
池上さんが怒っています。
記事を読んでみましょう。
大学入試に民間の英語試験を利用する案は、
萩生田光一文科相の「身の丈発言」で潰れましたが、
萩生田大臣は、またも問題発言をしています。
朝日新聞12月24日付朝刊の34面に、次の記事が出ていました。
<来年度から大学など高等教育の学費負担を減らす文部科学省の新制度で、
従来なら支援を受けられたのに対象外となる新入生が出ることについて、
萩生田光一文科相は23日、
「先輩はこういう家庭環境でこうだったのに、
俺はという不満はあるかもしれない」とした上で、
そうした学生が出ることに対し、
「制度の端境期なので、ぜひご理解を」などと述べた。
文科省によると、対象外となる新入生は国立大だけで約5千人になる見込み>
これは由々しきことです。
制度を変えることで支援を受けられない新入生が出ることは、
制度設計の欠陥と言うべきでしょう。
官僚が制度設計をした結果、対象外の学生が出ることが明らかになったら、
政治家の出番でしょう。
政治主導で救済策を考えるべきなのに、
政治家が自ら「端境期なので、ぜひご理解を」とは、なんたること。
弱い立場の人への思いやりが感じられません。
これでは、「身の丈に合わせて」という発言と大差ないではありませんか。
子どもたちに教育の機会均等を保障すべき
文部科学省のトップの発言とは信じられません。
「身の丈発言」がなぜ批判されたのか、
その意味がわかっていないのではありませんか。
池上さんの怒りは同じメディア業界で働く記者たちにも
向けられます。
こんな重大な問題発言をしたのに、
朝日のほかは日経新聞が24日の夕刊10面に小さく載せただけで、
読売新聞や毎日新聞は、この萩生田発言を報じていません。
これはどういうことか。
他の新聞記者たちは、この発言の重大さに
すぐに気づかなかったのでしょうか。
気づかなかったのならば、記者たちの感性の鈍さに驚くしかありません。
その点、朝日の記者は問題を感じたのですぐに記事にしたのでしょう。
その点で高く評価しますが、これだけの問題発言なのに、
その後の続報がないのは、ちょっとがっかりです。
(略)
池上さんは24日付毎日新聞夕刊2面、
「あした天気になあれ」のコラムを見つけます。
小国綾子記者の記事です。
フィンランドの教育事情と日本を比べて語っています。
フィンランドは幼稚園から大学まで学費が無料。
だから貧困の中からでも大学進学のチャンスがあり、
首相までの道が開けます。
コラムの記者(引用者注:小国記者を指す)は、こう文章を続けます。
<ため息が出た。今の日本でこの人生は可能だろうか。
ひとり親世帯の貧困率が5割を超え、
生活保護世帯や養護施設出身者の大学進学率は極端に低く、
文部科学相が教育機会を語るのに
「身の丈」などという言葉を持ち出す国なのだ>
池上さんは最後にこう綴って
今月のコラムを書き終えます。
国連の国別幸福度調査で
フィンランドは2年連続の首位であるのに対して、
日本の幸福度は世界58位。
その理由が、これでわかろうというものです。
子どもたちへの愛情が感じられない大臣と、感性の鈍い記者たち。
これでは少子化を食い止めることができないではありませんか。
(「池上彰の新聞ななめ読み」、この一冊でまとめ読み)