秋本治『秋本治の仕事術』(集英社、2019)

副題が面白い。
「『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由」。
秋本治秋本治の仕事術』(集英社、2019)を読む。



第1章 セルフマネジメント術、第2章 時間術、
第3章 コミュニケーション術、第4章 発想術、
第5章 健康術、第6章 未来術
とビジネス書のような章立てだ。
「時間術」から引用する。


  規則正しい勤務態勢こそが理想の働き方


  数十年前、マンガ制作のために「アトリエびーだま」という会社を設立し、
  以来アシスタントは社員として雇っています。
  マンガ制作の現場というのは毎日が修羅場のようなもので、
  漫画家もアシスタントも徹夜で食事もとらずに、
  血眼になって24時間描き続けるというイメージが強いようですが、
  うちの場合は少し違います。


  勤務時間は9時から19時までと定めていて、
  昼と夕には食事のための休憩時間が1時間ずつ。
  残業はなるべく少なく、そして徹夜はしないという方針で
  勤務してもらっています。
  社員はきちんと休みを取り、
  タイムカードで出退勤管理をしているというのも驚かれるポイントです。
  こうした規則正しい勤務体制は、僕自身の理想的な働き方に合わせています。


  もっとも僕も漫画家になった当初は、
  明け方の4時や5時まで描いていたものです。
  結婚してからは2時くらいに切り上げるようになったのですが、
  ラジオの深夜放送が好きで、
  1時からはじまる番組を結局5時ころまで聴いてしまっていました。
  翌朝はまた9時からはじめていたので、睡眠時間はかなり少なかったと思います。


  これはよくないと思うようになり、
  終わる時間を24時、22時、21時と早めていき、
  最終的には19時に切り上げるという習慣ができあがりました。
  はじまりの時間を早めたわけでもありません。
  朝は9時から、これはデビュー当時からまったく変わっていないのです。


  不思議なもので、終わりの時間をこんなに繰り上げ、
  マンガを描く時間を減らしても、できる仕事の量は変わりませんでした。
  「2時までに終わらせればいいんだ」という気持ちを切り替え、
  仕事のできる時間を短く設定してしまえば、
  おのずと仕事のスピードを速めていけるものなのです。


  僕もアシスタントも、昔に比べると描くスピードは
  かなり速くなっていると思います。
  もちろん、急に速くすることはできません。
  マラソン選手がタイムを少しずつ縮めていくのと同じ感覚で、
  調整しながら少しずつ速めていった結果です。
                       (pp.064-066)


どんなに時間術に長けても、
生み出すマンガがつまらなくては意味がない。
作者の代表作『こちら葛飾区亀有公園前派出所
(略称『こち亀』)は、40年間の連載、
全200巻のギネス記録を達成して2016年終了。
読者の支持がなければこうは続かない。



連載終了後、作者は4本の新連載を同時に開始し、
新領域にチャレンジしている。
凡百のビジネス書が及ばない、一流のビジネス書だと思う。


 

もっとも本書は経営者・秋本治さんの視点で書かれています。
労働者であるアシスタントのみなさんたちには
別の言い分があるかもしれませんね。