「癒着はダメだ」と自分をだましていなかったか(池上彰)

池上彰さんが悩んでいます。
いつになく筆が重そうです。
クリッピングから 
朝日新聞2020年5月29日朝刊
池上彰の新聞ななめ読み 
黒川氏との賭けマージャン 密着と癒着の線引きは


  この原稿を書くのは、なんとも気の重いことです。
  東京高検の黒川弘務検事長産経新聞の記者2人、
  それに朝日新聞の社員が、緊急事態宣言中に
  賭けマージャンをしていたというニュースです
  このニュースを知ったとき、
  私の頭の中にはいくつもの感情が渦巻きました。
  (略)


  でも、いくら何でも賭けマージャンはまずいだろう。
  しかも、「週刊文春」にすっぱ抜かれたのだから間抜けなことだ。
  なんで新聞社が、こういう記事を書けないんだ……。


  私もかつてNHK社会部の記者でした。
  警視庁を2年間担当し、捜査1課の幹部から一線の刑事たちまで、
  多くの人たちから情報を得ようと必死な時代がありました。
  結局たいした特ダネも書けないまま警視庁担当を外れました。
  いまでも時折、あの頃のことを思い出し、
  自分のふがいなさに情けなくなります。
  後輩たちに偉そうなことは言えません。


  しかし、このとき上司から言われたことは忘れられません。
  記者の心得として、「密着すれど癒着せず」という言葉でした。
  取材相手に密着しなければ、情報は得られない。
  でも、記者として癒着はいけない。
  この言葉を肝に銘じて……と言うと優等生のようですが、
  密着することができなかった自分の能力不足を棚に上げて、
  「癒着はダメだから」と自分をだましていたようにも思えてしまいます。
  (略)


この後、池上さんは22日付毎日新聞朝刊に掲載された
ジャーナリスト大谷昭宏氏、メディア論専門の鈴木秀美氏両者のコメントを引用。
最後にこう書きます。


  賭けマージャンをしていることを知りながら、
  なぜ報じなかったのか。
  こういう疑問が出るのは当然のことです。
  読者から、そう聞かれたら何と答えるのか
  他社の記者たちにとっても人ごとではなく受け止めてほしい声です。


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今月の「ななめ読み」で池上さんは、
報道する側のジャーナリストとメディアの問題に絞って原稿を書いています。
「記者や元記者が権力と癒着するのは当たり前なんだろう」
と読者があきらめてしまえば、メディアへの信頼そのものが揺らぎます。
朝日はこの後、関与した社員の一カ月の停職処分を発表し、読者に謝罪しました。