池上彰さんが朝日に月イチ連載している「新聞ななめ読み」。
さて、10月はどのトピックを取り上げるか、注目です。
クリッピングから
朝日新聞2020年10月30日朝刊
温室効果ガス実質ゼロの「解説」
専門用語クイズですか?
日本もついに地球温暖化対策で世界各国と足並みをそろえました。
菅義偉首相が国会の所信表明演説で
「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言したのです。
10月27日付朝刊各紙はいずれも大きく取り上げました。
温室効果ガスとは、地球を取り巻く二酸化炭素のようなガスのこと。
太陽で温められた地球の熱が逃げないようにする働きがあるので、
まるで温室のようだとして、この名前で呼ばれます。
でも、「ゼロにする」という見出しを見て、
「生活していれば二酸化炭素を出すのに、どうやってゼロにするのだろう」
と疑問に思った読者も多いはずです。
(略)
各紙報道を読み比べ、
池上さんはこう結論付けました
では、読売はどうか。
こちらは菅首相の所信表明演説の中の一部としての紹介と解説しかなく、
物足りないのですが、2面に「実質ゼロ」についての解説がありました。
<実際の排出量から、植物が光合成などを通じて吸収した量を
差し引いて算出する。
排出量と吸収量が釣り合った状態を「実質ゼロ」と呼ぶ。
吸収量は「気候変動枠組み条約締約国会議(COP)」
で決められた方式に従って計算する>
これが読者の立場に立った記事というものです。
普通の読者は一紙しか購読していないでしょう。
(社団法人・日本新聞協会発表データでは
2019年10月現在、1世帯あたり0.66部です)
複数紙を比較検討して情報を読み解ける読者は限られています。
池上さんは、自分が導いた結論にたどり着くまでに
どんな専門用語の落とし穴があったか、綿密に解説してくれます。
各紙の解説にはこんな言葉が散りばめられていました。
「森林吸収分などを差し引いた実質ゼロ」
「脱炭素」「ESG投資」「カーボンニュートラル」
「原発の新増設や建て替え(リプレース)」
「カーボンプライシング」
池上さんはこう批評します。
ここまで来ると、
「以下の用語の意味を解説せよ」というクイズ問題に使えそうです。
念のために言っておきますが、これは皮肉です。
僕も新聞にザッと目を通したとき
「脱炭素社会をめざす」という意味が分かりませんでした。
日々の暮らしには掃除、洗濯、炊事、猫の世話など
次から次へと仕事がやってきます。
新聞を精読する時間はわずかしか取れないのが普通の生活です。
勘所を素早く、漏れなく、ひとつの立場・考えに縛られず、
日々報道してくれること。
それがジャーナリズムに一番期待したいことです。
「新聞ななめ読み」は、池上さんが毎月ひとつのトピックに絞って
新聞の読み方を教えてくれます。
不親切な記事に対して容赦なく指摘する点が読者には役立ちます。
同時に、記事の読み手としての僕たちの自覚も促しているのです。
[追記]
朝日新聞2020年11月14日朝刊「いちからわかる!」で
コブク郎が尋ねてくれました。
温室効果ガス排出(はいしゅつ)「実質ゼロ」って?
見出しでこう答えています。
植物などが吸収するCO2を差し引いてゼロを目指す
池上さん、このコラム、どう読みましたか?
担当・神田明美記者は
「池上彰の新聞ななめ読み」を読んで
どう書くか、考えたでしょうね。
一読者の僕にはうれしいフォロー記事になりました。
- 作者:池上 彰
- 発売日: 2019/10/31
- メディア: 単行本
- 作者:池上 彰
- 発売日: 2011/12/06
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