B級陥落時、10年分の将棋を見直した(渡辺明)

クリッピングから
毎日新聞2020年8月16日朝刊
「魔王」渡辺ついに頂点
縁遠かった名人位 36歳で


名人戦を朝日と共同主催しているだけあって
毎日の記事は内容が豊かで読み応えがある。


  プロデビューから20年、
  風貌が似ている超能力を持つ漫画の主人公から転じた
  「魔王」の異名で呼ばれる実力者がついに頂点に立った。


  関西将棋会館大阪市福島区)で14、15日に指された
  第78期名人戦七番勝負第6局は、
  挑戦者の渡辺明王将(36)が豊島将之名人(30)を降し、
  世襲から実力制に移行後、15人目の名人となった。
  就任年齢は4番目の年長で、獲得までの年数も4番目に長い。
  (略)


  渡辺は中学3年時の3月にプロ入りを決め、将来を期待された。
  六段時代の2004年に20歳で初タイトルの竜王を獲得して以降、
  無冠になったことがない。
  しかし、名人戦順位戦では苦労した。
  一番下のC級2組から名人戦の挑戦者を決めるA級にたどりつくまで10年を要し、
  そのA級でも、挑戦権を得ることもないまま8期目でB級1組に陥落した。
  (略)


  16年には佐藤天彦九段(32)が28歳で、
  昨年は豊島が29歳で名人位をつかんだ。
  渡辺は「最初にA級に上がったときは、メンバーの中でも断然若かったので、
  名人戦に出るチャンスはあるかなと思っていた。
  しかし、後輩が名人戦に出るようになり、名人戦への意識が遠のいていった」
  と当時を振り返った。
  (略)


  渡辺は7月に藤井七段に棋聖を奪われたが、
  直後の名人戦第4局に勝ってスコアをタイに戻した。
  第5局では苦しい展開をはね返し、第6局は得意の矢倉で退けた。
  (略)

                      【新土居仁昌】


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「ひと」欄からも引用する。
新名人の人柄がうかがえる内容だ。


  デビューから20年で、ようやく名人の座をつかみ、
  「あと何回(名人戦に)出られるかと考えた時、
  今回何とかしたいという気持ちはあった」
  と切実な思いを吐露した。


  2010〜17年度の8期、A級順位戦に在籍しながら
  名人戦挑戦者にはなれなかった。
  A級から陥落した18年には将棋雑誌のインタビューで
  「もう名人にはなれない」とあきらめの言葉も出た。


  しかし、この苦しい時期に
  「直近10年ほどの自身の将棋を見つめ直した」という。
  スランプを乗り越え、B 級1組を12戦全勝で抜け、
  A級でも9戦全勝と破竹の勢いで初の名人戦挑戦権を獲得。
  七番勝負でも豊島将之名人(30)を破った。
  (略)


  関心を持ったことに熱中し、
  自分なりの結論を得ないと気が済まない性格。
  プライベートでは趣味の競馬や「将棋に近い」と言うカーリングに凝り、
  棋士らとの旅行を自ら企画し、15分単位で行程を決める。
  「作戦を細かく決める」という自身の将棋の戦い方と同じだ。
  (略)

                      文・山村英樹
                      写真・加古信志


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陥落したB級1組から復帰したA級順位戦まで
21戦全勝で名人位挑戦権を獲得。
7月に藤井七段に棋聖を奪われた後、
豊島名人との戦いで3連勝し名人位を手にした。
気力、実力ともに並大抵のものとは思えない。
これからも長く、後輩たちの挑戦を阻む
ぶ厚い壁となってくれることを一ファンとして願っている。


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