また現れるウーバーイーツ(織部壮)

クリッピングから
讀賣新聞2021年1月25日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も好きな歌5首、
抜き書きしてみます。


  これからはひとりとひとり改札を
  子が通るたびピヨピヨと鳴く

        さいたま市 中込有美


     【評】小児運賃がかかるようになって、
        子どもは切符を持ち、改札を通る。
        「ひとりとひとり」という表現が、情景を的確に捉えつつ、
        一体感がなくなった寂しさをも伝えてくれる。
        小児の印のピヨピヨも印象的だ。


いつも思うことだが、
限られた文字数を使って万智さんが書く評が的確だ。
評を読んだ後、歌を読み直すと味わいが確実に深まっている。
例えば、「ひとりとひとり」を
僕はうっかり「ひとりひとり」と読んでいたことに気づく。
子どもが大勢改札を通る光景かな、とカン違いした。
「と」をきちんと読み込むことで、母と子の関係が見えてくるのだった。


  あの角で追い抜いたはずの自転車が
  また現れるウーバーイーツ

           東京都 織部


自分も日常で見かけている光景を
不思議な歌にしてくれた。
全部違うはずの配達員が、背負ったリュックと緑のロゴで
同一人物に見えてしまうのだ。


  CMにならないような食卓で
  きみと笑って飲んだ金麦

       久留米市 一ノ瀬ケイ


「金麦」の商品名を具体的に使っていることで
グンと身近な風景になった。
CMにならない食卓に日々の幸せが見つかる。


  病室へメールは自由に出入りする
  雪降り積もる新春の窓

         松江市 犬山純子


不自由の多い病院暮らしで、
メールがまるで妖精のように知人・友人と自分を繋いでくれている。
彼らの働きのおかげで、孤独も少し和らぐだろうか。


  ウェディングドレスの試着はリモートで
  娘の選ぶレースの質感

          大田原市 伊藤雅代


娘さんの結婚式の準備も普段通りにはできない母親の寂しさ。
でも、ご本人はリモートでいまできることを、
淡々と進めていらっしゃるようにも見える。


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未来のサイズ

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  • 作者:俵 万智
  • 発売日: 2020/10/02
  • メディア: 単行本
(万智師匠の最新歌集。装幀:菊池信義)