インタビュー:坂上泉『インビジブル』(文藝春秋、2020)

クリッピングから
オール讀物」2021年1月号
第164回直木賞候補作『インビジブル
「戦後の大阪を駆ける二人の刑事」―坂上
(インタビュー・構成:「オール讀物」編集部)


インビジブル (文春e-book)

インビジブル (文春e-book)


読み始めたら止まらなくなってしまった。
昭和29年と言えば僕が生まれた年だ。
その頃の大阪がどんなふうで、人々がどう生きていたのか。
頁を繰ると光景が浮かんでくるようだった。


  (略)
  直木賞候補となった本書は、
  戦後の数年間だけ実在した「大阪市警視庁」を舞台にした警察小説だ。


  「大学時代にたまたま読んだ本の中に大阪市警視庁の名前が出てきて、
  名前の格好良さもあって少し心に引っ掛かっていたんです。
  二作目で昔住んでいて思い入れのある大阪の戦後を書こうと決めたとき、
  あのとき知った大阪市警視庁がうまく繋がりました」

 
  昭和二十九年、大阪城の足下に広がる焼け跡に建つバラック街で、
  成り上がり政治家の秘書が頭に麻袋を被せられた状態で刺殺体となって見つかる。
  政治テロルかと大阪市警視庁が騒然とするなか、
  初めて殺人事件の帳場に入った若手刑事の新城は
  捜査に向けてひとり意欲を燃やしていた。

 
  しかし、そんな新城が命じられたのは、
  上層部の思惑によって国家警察から派遣された警察官僚・守屋と組むことだった。
  帝大卒なのに聞き込みも満足にできない守屋に、
  厄介者を押し付けられた形の新城はいら立ちを募らせる。
  最初は反目しあいつつも、次第に強い信頼で結ばれていく二人の関係は、
  数多の刑事バディの名作にもひけを取らない今作の魅力だ。
  (略)


  事件は同じ手口で殺された第二、第三の死体が見つかり混迷を深める。
  一方、新城らの必死の捜査と並行して各章の冒頭で語られるのが、
  岐阜の寒村から満洲へ渡ったある男の人生だ。


  「戦後を考えるときに満洲を避けては通れないという思いがあります。
  沖縄戦に匹敵するほどの犠牲者も出ていますし、
  本土へ引き揚げた方々にも悲惨な話はたくさんあります。
  あまり語られることのない満洲移民のことを小説で書いてみたかったんです」
  (略)

 

  坂上 泉(さかがみ・いずみ)

  一九九〇年、兵庫県生まれ。
  二〇一九年、『へぼ侍』で第二十六回松本清張賞を受賞しデビュー、
  同作で第九回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞。


坂上は1990年生まれだから、まだ31か32。
本作はデビュー二作目だ。 
楽しみな作家がまたひとり登場した。


本書で第23回大藪春彦賞(後援:徳間書店)受賞。
(選考委員:大沢在昌黒川博行東山彰良
書き続けていけば、直木賞もいずれ取るでしょう。
タイトルの『インビジブル』。
読み終わると、じわっと沁みてくる。


へぼ侍

へぼ侍

  • 作者:泉, 坂上
  • 発売日: 2019/07/09
  • メディア: 単行本
(デビュー作。さっそく借りてきました!)