こんな静かな毎日を送ることなど想像もできませんでした(阿部ツエ子、93歳)

クリッピングから
毎日新聞2021年9月20日朝刊
読者投稿欄「女の気持ち」
思わぬ出来事


  それは持病のため、
  何度目かの入院をしていた去年のことでした。
  コロナ禍で誰とも面会ができず、
  娘は「お母さん、帰ろう」と電話をしてきます。
  私も帰りたいと思いましたが、治療半ばで帰ることはできません。


  そんなある日、病院のソーシャルワーカーの方が来て、
  私の気持ちをていねいに聞いてくれました。
  そして娘が病院に呼ばれ、担当の先生を交えた3者会談の結果、
  自宅療養となったのです。


  それからの暮らしは、180度ガラリと変わりました。
  ケアマネジャーさんが来る、リクライニングの貸しベッドが来る。
  月2回の訪問診療、週1回の訪問看護……あれよあれよと進んでいきました。
  私は入院中は食欲がなく、どんどんやせて
  気力体力ともだいぶうせていました。


  あれから1年。
  今は寝ていることが多いものの、まだ手足は動きます。
  外出はできませんが、身の回りのことはできます。
  そして、娘の手料理をおいしく食べられるようになりました。


  毎朝6時、仏壇にお茶をお供えして
  「今朝も歩けました」とお礼をします。
  新聞をゆっくり読んだり、過ぎ去った日々を思い出したりと
  退屈することはありません。
  こんな静かな毎日を送ることなど想像もできませんでした。


  これから先、どうなるか誰にもわかりませんが、
  それは考えないことにしましょう。


        埼玉県ふじみ野市 阿部ツエ子 無職・93歳


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上野千鶴子先生が提唱している
「在宅死のススメ」に惹かれるものがあります。
こんな「自宅療養」のやり方もあるんだなぁ、
と阿部さんの投稿に勇気づけられました。