絶望的な状況の中で見いだされるようなものでなければ、希望の名に値しない(柄谷行人)

クリッピングから
朝日新聞2023年1月28日朝刊
2022年度朝日賞受賞スピーチ
哲学者・批評家 柄谷行人さん



  朝日賞受賞は、私が昨年秋に出した
  「力と交換様式」が評価された結果だと思います。
  これは、私が長年取り組んできた「交換様式」論の集大成のような本です。
  交換様式は、
  戦争や経済恐慌などの致命的な問題を必然的に伴う社会のあり方を理解し、
  それを超える道を見いだすために、必要な観点です。


  この本で私は、現在の世界が
  いかに絶望的な状況に置かれているかを語るとともに、
  希望がないことが希望だ、と述べました。
  それはレトリックではありません。
  私がいう希望とは、楽観的な展望のことではない。
  絶望的な状況の中で見いだされるようなものでなければ、
  希望の名に値しない。
  私はそれを、今度の本の最後において見いだしたと思います。


  受賞は、私の現在を評価してくれた、
  未来につながるものなのではないか。
  若いとは言えない自分に、
  まだ、これからなすべき仕事があると感じています。



  ▼選考委員(敬称略)

   青柳 正規 (多摩美術大学理事長)
   伊東 豊雄 (建築家)
   上野千鶴子 (社会学者)
   梶田 隆章 (日本学術会議会長)
   榊  裕之 (奈良国立大学機構理事長)
   田中 啓二 (東京都医学総合研究所理事長)
   野田 秀樹 (劇作家)
   角田 克  (朝日新聞社常務取締役編集担当)
   中村 史郎 (委員長、朝日新聞文化財団理事長・朝日新聞社社長)