「個人商店」にしかできないことをシャベル1本でやろう(星野博美)

クリッピングから
朝日新聞2023年1月28日朝刊
第49回大佛(おさらぎ)次郎賞受賞スピーチ
ノンフィクション作家 星野博美(ほしの ひろみ)さん


(受賞作「世界は五反田から始まった」)


  私の祖父が東京・五反田周辺で営んだ町工場は
  戦時中、戦争に使われる何かを作っていた。
  そのことをカミングアウトしないと、
  何かを語る資格はないと思っていた。
  五反田という土地をテーマにした「世界は五反田から始まった」で、
  ようやく書くことができた。


  コロナ下に、自分の地元を観光客のように歩いたことで、
  新たな五反田像が見えてきた。
  書きながら、スペイン風邪が流行した100年前の祖父の時代と、
  自分の時代が交差するような奇妙な感覚があった。


  これまで地域と庶民の暮しを大事にして作品を書いてきた。
  大手メディアができないことを、
  「個人商店」にしかできないことをシャベル1本でやろうと。
  それが結実したのが今回の作品ではないかと思う。


  文筆業界に入って30年以上になるが、
  信用第一の製造業の方が性に合っているような気もしている。
  製造業の魂を持ちながら、
  地道に小さなことに目を向けて生きていきたい。



  選考委員(50音順・敬称略)

  後藤正治(ノンフィクション作家)
  斎藤美奈子(文芸評論家)
  田中優子(法政大学前総長)
  辻原登(作家)
  船橋洋一(本社元主筆)


星野さんは「月刊All Reviews 2022年8月号」で
本作品をテーマに主宰・鹿島茂さんと対談。
概要は下線部クリックで。