星野博美『世界は五反田から始まった』(ゲンロン叢書、2022)

タイトルがいい。
本書が取り上げた昭和20年5月の
城南大空襲についても知りたかった。
星野博美『世界は五反田から始まった』(ゲンロン叢書、2022)を読む。



「はじめに」から引用する。


  私の出身地、そして現居住地は、
  東京都品川区の戸越銀座である。
  祖父の代から1997年まで、
  私の家族はここで町工場を営んでいた。
  (略)


  これから私は延々と、五反田界隈の話をする。
  五反田については常々、何か書きたいと思っていたし、
  パラパラと散発的に書いたこともある。
  しかしこの街に対する私の異様な執着に理解を示してくれる編集者が
  既存の紙媒体にはおらず、
  これまでと同様、日記に書くしかないと諦めかけていた。


  そんなある時、ゲンロンの東浩紀さんと上田洋子さんから
  月刊電子誌『ゲンロンβ』連載の話を頂いた。
  しかも、「テーマは五反田で」という。
  東さんが創設し、上田さんが代表を務めるゲンロンは、
  カフェもオフィスも五反田にある。


  私は2015年春頃から、関心あるテーマの際、
  ゲンロンカフェに討論を聞きに通ってきた。
  刺激的な討議を聞くことがもちろん目的だったが、
  それが五反田で行われていることが私には何より嬉しかった。


  五反田を思いきり書いてよいのか? 
  この媒体でなら、私的な存在である五反田を普遍化できるかもしれない。
  そう思った瞬間、様々な時代の記憶が噴出して収拾がつかなくなり、
  いかに自分がこれまで、五反田に対する思いを封印してきたかを
  思い知らされたのだった。
  (略)


  「世界は五反田から始まった」
  このタイトルを目にした人の九割は、おそらく「くすっ」と笑うだろう。
  いくら五反田に拠点を置くゲンロンを版元にして書くからといって、
  世界が五反田から始まるわけがない、サービスしすぎではないのか、と。


  一般論ではない。
  これは私が所属する世界の話である。
  しかし一方では、こうも思っている。
  五反田から見える日本の姿がきっとあるはずだ。
  そう信じて、五反田を歩き始めようと思う。

                           (pp.10-13)


PASSAGE「ゲンロンの本棚」(Rue Jean-Jaques Rousseau 5)から新刊で購入。
鹿島茂が「月刊All Reviews」(神保町PASSAGE/オンライン配信)、
高橋源一郎が「高橋源一郎飛ぶ教室」(NHKラジオ第一)で本書を取り上げ、
それぞれ星野と対談。


(この作品で2001年、第32回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
 選考委員:猪瀬直樹関川夏央立花隆、西木正明、藤原作弥、柳田邦男)


(祖父・量太郎のもう一つの物語)