武田砂鉄選:五味太郎『大人問題』(講談社、単行本1996/文庫 2001)

クリッピングから
毎日新聞2021年12月18日朝刊
「今週の本棚/なつかしい一冊」
武田砂鉄(ライター)・選
『大人問題』五味太郎著(講談社文庫、660円)


砂鉄がパーソナリティを務める
ラジオ番組「アシタノカレッジ」(TBSラジオ金曜22時〜24時)に
五味太郎がゲストで招かれたことがあった。
砂鉄が五味のどこに惹かれるか、
この文章を読むと腑に落ちる。


  二五年前に刊行された本だが、
  こんな箇所を引用すれば、
  今こそ読むべき本だと伝わるはず。
  なので、「なつかしい一冊」ではない。
  選書ミスだ。


  「この国のキーワードは
  『そういうことになっている』というやつです」
  「『ちょっと変だな』『なんで、そうなるの』
  なんて思って質問したりすると、
  だいたい担当者は
  『そういうことになってるんですよね』と言います。
  (略)


  ある文章の感想を五十字以内で述べなさい、
  という問いかけに、
  「べつに。」と答えた子どもがいた。
  それを知り、「しみじみします。まったく同感です」。


  算数の問題で、兄が徒歩で家を出発、
  しばらくして弟が自転車で出発、それぞれ駅に向かったが、
  弟に兄が追いつくのは駅の何メートル前になるか、と問う。
  それを読んだときに、
  「なんで弟を待ってやれないんだよ」とか
  「別々に駅に何しに行くんだろう」と思える人は「いい人です」、
  そして、「そのうち必要があれば、
  たぶんなんとかその問題もこなす人々です」。


  大人になると、こういう考え方を失い、
  子どもから消そうとする。


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