クリッピングから
毎日新聞2021年12月18日朝刊
「今週の本棚/2021 この三冊(下)」
湯川豊(文芸評論家)
今年も締めくくりの時期になって
読書界でも一年を振り返る企画が楽しい。
今年読んだ今の日本の小説のなかで
いちばん心惹(ひ)かれた作品である。
たぶん読んでいるうちに、
これは小説の新しい可能性ではないかと、
再三思うことができたからだろう。
そして三人の主要登場人物がきわめて魅力的。
そういう小説は本当に少なくなった。
この作品の、二人の書評を続けて読み
(その一人は湯川だったと記憶する)、
気になって図書館から借りてきた。
さして大事件が起きる訳でもないのに
いつの間にか物語に引き込まれる。
文章を味わいながらゆっくりしたペースで読むと、
なぜかホッとした。
小説を読む醍醐味というものだろうか。