クリッピングから
毎日新聞2022年1月15日朝刊
「今週の本棚」評:加藤陽子(歴史学者)
『東京の古本屋』橋本倫史著(本の雑誌社・2200円)
古本屋に流れる時間を記録しようと著者は、
2019年12月から10軒の本屋を訪ねて仕事を共にした。
間に中断を挟み、21年7月の五輪開会式当日をもって記録は終わる。
「本が見得を切」れるように棚を毎日並べ替え、
古書交換会では入札者の手許(てもと)を見つめない等、
内側から描かれるプロの手際に興味は尽きない。
本屋の時間を描いたはずの本書は、気がつけば、
不要不急か否かで世の仕事が分類されてしまった
コロナ下の東京の見事な定点観測となっていた。
カミュは『ペスト』で
「いかに働き、いかに愛し、いかに死んだのか」を書いたが、
著者は本屋が
「いかに働き、いかに本を愛し、いかに生きているのか」を描いた。
(略)
最後に本書に登場する本屋の名をば。
古書 往来座、盛林堂書房、丸三文庫、
BOOKS青いカバ、古書ビビビ、岡島書店、
コクテイル書房、北澤書店、古書みすみ、古本トロワ。
全店踏破を。
リュックサックの横ポケットに水筒を忍ばせて、
一軒ずつ踏破してみたくなる。
これぞ、不要不急の、東京の旅だよなぁ。
(このお二人も、散歩の達人)