面談みたいなラップをしたい(坂庭悦子)

クリッピングから
讀賣新聞2022年7月4日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週は好きな歌5首、抜き書きしました。


  車窓から見える町では穏やかに
  暮らせそうだと愚かに思う

      泉大津市 のぶつばき


    【評】移動の時間に去来した思いを捉えて、
       簡潔に現在の虚(むな)しさが伝わってくる。
       今は穏やかな暮らしではないし、
       住む場所を変えたとてどうなるものでもないのだろう。
       「愚かに」にこもる諦念と自己認識の深さ。


  立場上はいと言えない日々にいて
  働くことは長い寸劇

        東京都 吉村おもち


    【評】仕事上の立場が、自分の発言を決めてくる。
       これはつまり定められたセリフではないか。
       寸劇と言いつつ「長い」としたところに、
       作者の思いがこもる。


  降り止まぬ母の小言に濡れる夜
  タオルみたいな犬を抱きたい

        神戸市 若杉有紀


    【評】タオルの比喩が秀逸だ。
       よき肌触りとともに、
       それは小言の雨を拭(ぬぐ)ってくれる。


  センセイとホゴシャの枠を取っ払い
  面談みたいなラップをしたい

          足利市 坂庭悦子


ラップみたいな面談、面談みたいなラップ、
僕も聴いてみたいなぁ。
面と向かって言いづらいことも
ラップならカドが立たないかも。


  雑炊にするとかうどんを入れるとか
  誰も死なない喧嘩がしたい

         松原市 たろりずむ


まったくだよ。