一針ずつ刺繍のごとく生きていて(樋口直子)

クリッピングから
朝日新聞2023年2月20日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  一針ずつ刺繍のごとく生きていて
  みんなみんな表は華やか

       さいたま市 樋口直子


    【評】華やかな刺繍(ししゅう)も、
       裏を見れば複雑に糸が絡まりあっているし、
       決して美しい模様とは言えない様相を呈している。
       「一針ずつ」にこもる人生の苦労。
       表を詠んで、裏をしっかり想像させるところが、いい。


  故郷のことを語らぬ流氷が
  歓迎される異国の岸辺

      松本市 鈴木真理


    【評】オホーツク海の流氷は、
       ロシアのアムール川で生まれる。
       ロシア産のものを制限する世界の動きを思うと、
       複雑な光景だ。


  路地の奥までは令和も平成も
  入り込めずに昭和のまんま

       甲府市 村田一広


    【評】東京の下町などでも、
       路地の奥には、昭和の風情が残っている。
       狭くて時代が入り込めないという捉えかたが面白い。