泣き出しそうな椿の蕾(田中澄子)

クリッピングから
讀賣新聞2021年1月18日朝刊
読売歌壇(俵万智選)


今週も自分の好きな歌、抜き書きします。
四首になりました。


  走る子が回転させるかざぐるま
  回転をして子を走らせる

        酒田市 村上秀夫


     【評】動詞を重ねることによって、
        子どもの生命力が伝わってくる一首。
        回転させるために走っていたが、
        回転によってさらに走らされる。
        その循環が、回る風車のようでもある。


子どもと風車。
いつの間にか主客が逆転してしまう発想が面白い。


  華やかな服を着ている恥しさくらいの気持ちで
  美容室出づ

             三島市 芹沢詩子


恥ずかしいけれど、髪が整ってうれしくもある。
誰かに褒めてもらいたい気も少しする。
そんな気持ちが伝わってきました。


  取り壊すことが決まった庭先に
  泣き出しそうな椿の蕾

           船橋市 田中澄子


自分が咲くまで木を残してもらえそうにない。
それに気づいた椿の蕾の無念に思いを馳せる
詠み手の心の繊細さに惹かれます。


  「滑走路」観終えし人らはゆっくりと
  誘導灯に流されてゆく

           船橋市 矢島佳奈


儀式を終えて無言で誘導灯を頼りに歩いていく人たち。
飛行機が飛び立つ轟音が去った後に
静寂の時間が流れているような光景でした。


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