佐藤亜紀『吸血鬼』(角川文庫、2022/講談社、2016)

書評サイト「All Reviews」が企画運営する
オンライン対談イベント「月刊All Reviews」。
5月に作家・川本直、書評家・豊崎由美(フィクション担当責任者)が
佐藤亜紀の新刊『喜べ、幸いなる魂よ』(KADOKAWA、2022)を紹介。
後半には客席にいた佐藤も参加し鼎談となった。
そのセッションで最後に紹介されたのがこの一冊。
佐藤亜紀『吸血鬼』(角川文庫、2022/単行本:講談社、2016)を読む。


(カバーイラスト/阿部 結、カバーデザイン/坂詰佳苗)


カバー裏の「あらすじ」を引用する。


  1845年、オーストリア帝国支配下にあるポーランド
  僻村ジェキに着任した役人ゲスラーは、
  若き妻を伴い陰鬱な地にやって来た。
  かつて文学青年だった彼は、
  愛国詩人でもある領主との交流を心待ちにしていたのだ。


  だがその矢先、村で次々に不審な死が発生し、
  人々は土俗的な迷信に怯え始めるーー
  独立蜂起の火種が燻る空気の中、
  人間の本質と恐怖の根源を炙り出す、恐ろしくも美しい物語。
  皆川博子氏と作者による解説を収録。


皆川の「解説(作者と共に)」から引用する。


  『吸血鬼』を読み耽っているとき、不思議な体験をしました。
  音楽を感じた……というより、音楽を視た、のです。
  人物のそれぞれが異なる楽器であり、情景を記す地の文まで楽器であり、
  それを作曲者である作者が指揮して交響楽を演奏するというふうで、
  読了後も、複雑な重層性に圧倒されながら音楽の余韻の中にいました。


皆川は続けて、
この解説に「作者と共に」と付記した理由について説明している。


  文庫化にあたり解説をお引き受けはしたのですが、
  「解説」というからには、解説者は少なくとも
  作者と同程度の知識、見識を持たねばなりません。
  基礎知識に欠ける私には不可能なので、
  幾つかの質問を記したメールを作者にお送りしました。


  佐藤さんは最初、原稿用紙換算で
  三十枚を超える長文を書いてくださったそうですが、
  解説の紙数はごく少ないので、
  短いバージョンをさらに書き直すという難業をしてくださいました。
  メールによるお手紙の挨拶(あいさつ)を除いた全文を
  ここに転載します(ゆえにこの「解説」は、半分は作者自身によるものです)。

                             (pp.314-315)


この後に続く佐藤の文章は
本書で読んでほしい。


佐藤の略歴をカバーから引用する。


  1962年新潟県生まれ。
  91年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。
  2003年『天使』で芸術選奨新人賞を、
  08年『ミノタウロス』で吉川英治文学新人賞を受賞。


  16年に発表した本書と19年に発表した『黄金列車』は
  それぞれTwitter文学賞国内編第1位を獲得した。
  他の著書に『鏡の影』『戦争の法』『モンティニーの狼男爵』『1809』
  『醜聞の作法』『金の仔牛』『スウィングしなけりゃ意味がない』など多数。