この法律にはカルト団体とは何を指すかを定義していない(Phillipe Mesmer)

クリッピングから
毎日新聞2022年12月5日朝刊
「私が思う日本」(毎日新聞デジタル連載コラム)
フィリップ・メスメール記者(ルモンド紙東京特派員)


  最近、フランスにとても興味を持っている日本の国会議員と
  昼食を共にする機会があった。
  私たちはフランスと日本の時事問題について議論したが、
  その重要なテーマの一つは旧統一教会の問題だった。
  (略)


  フランスでは、
  キリスト教をはじめとする主流の宗教を除いて、
  それほど多くの宗教的運動がなく、
  政治家と宗教団体の強いつながりもなかった。


  だが90年代後半に、
  現在日本で起きているのと似たような議論があった。
  当時、過激なカルト教団による運動が起きたためだ。
  90年代に日本でオウム真理教が起こした問題に似た現象と言える。
  フランスなどで94〜97年、大勢の信者が集団自殺した
  新興宗教太陽寺院教団」がその例だ。


  フランス政府はこの問題を受けて、
  どのようにすれば信教の自由を侵害せずに、
  宗教団体による逸脱行為に対処できるかを検討した。
  (略)


  90年代の議論は2001年に法律として結実した。
  この法律にはカルト団体とは何を指すかを
  定義していないという特徴がある。
  フランス国家は良心、表現や信教の自由を侵害しないために、
  そうすることを選んだ。


  この法律は
  「心理的にコントロールされた特定の状況において、
  人権や基本的な自由を侵害し、公共の秩序を脅かし、
  法や規制に反する行為」だけを規制する。
  どのような行為が違法となるかは、


  信者を心理的に不安定にさせること▽
  信者に対する法外な金銭的要求▽
  信者と家族との関係断絶▽
  公共の秩序を乱すことーー
  などといった基準に基づいて判断する。


  02年には、カルト団体による逸脱行為に対応する
  省庁横断の「警戒・対策本部」(通称ミビリュド)が発足した。
  カルト問題を観察・分析し、
  行き過ぎた行為の予防と抑止に取り組み、
  国民に情報提供することが任務だ。
  毎年、平均して2000件の報告を受け、
  被害者支援にも貢献している。
  (略)


  この法律は実際に役立っているようだ。
  ミビリュドは定期的に活動報告を出している。
  最新の21年版では、1年に寄せられた情報の件数が
  5〜20年の間に40%増えたことに懸念を示した。
  政府機関に警告し、新たな悲劇を防ぐのに十分な多さだ。
  日本も同じでないと誰が言えるだろうか。

                  【訳・五十嵐朋子】


    Philippe Mesmer 

    

    フランス・パリ出身。
    2002年に来日し、仏紙「ルモンド」のほか、
    仏誌「レクスプレス」の東京特派員として活動する。
    東日本大震災の被災地には発生直後から足を運び続け、
    宮城県福島県の住民の声をフランスに届けている。

    好きな街は東京・神保町。
    昭和の薫りのするカフェと、
    最近は数が減りつつある古書店を愛する。