「お前の笑った顔がかわいい」と父は言ったもん

クリッピングから
朝日新聞2023年7月15日朝刊
読者投稿欄「ひととき」 父の大きな愛  
札幌市 髙野スエ(無職 88歳)


  私は幼い頃、どう見ても可愛い子ではなかった。
  姉は私の手を握り、近所の人に
  「鼻は天を向き目は細いし、
  大きくなったらどうなるかと思うとかわいそう」と平然と言った。
  近所の人も、顔はほめるところがないからか、
  「髪は黒々として、カラスの濡(ぬ)れ羽色ね」と頭をなでた。


  そんな時でも私は心の中で、
  「父は『お前の笑った顔がかわいい』と言ったもん」と思い、
  傷つくことはなかった。
  父は、物心つく頃から私を胡座(あぐら)の上に乗せ、
  いつも「笑顔がかわいい」と抱きしめてくれた。
  そのおかげで、一度も自分の顔に対して
  劣等感を抱くことはなかった。


  成長するに従って少しは見やすくなったが、
  容姿は美しいとは言えない。
  息子でさえ、高校生の頃の私の写真を見て
  「もてなかっただろうな」と言った。
  何通かラブレターをもらったこともあり、
  内心「もてたのに」と思ったが、息子の言葉は的を射ていた。


  今の年まで、顔に劣等感を持たずにこれたのは、
  父の大きな愛情のおかげだった。
  ちなみに88歳の今、
  髪は白い部分もあるがふさふさとしている。