こつこつ教えたことが私の天職だった(代田七奈子)

クリッピングから
朝日新聞2022年1月31日朝刊
読者投稿欄「ひととき」
成人した教え子に


代田さんの投書を読み、
天職というのは自分で気づかなくても
他人が教えてくれることがあるんだなぁ、と思った。


  1月9日の日曜の夕方、玄関のチャイムが鳴った。
  急いでマスクをつけ、「どうぞ」と声をかけた。
  扉が開くと、「中学時代、大変お世話になりました」。
  正装したイケメンが3人、次々と名前を告げ、頭を下げた。


  面影はあるが、最初はぴんとこなかった。
  1人が羽織はかま姿だったので、
  ああ、成人式の帰りに寄ってくれたのだと納得した。
  彼らは小学6年の3月から、私の小さな英語塾に通い始めた。
  仲のよい3人組だった。
  まだ背も低く、時々、生意気な口をきた。


  平成が終わる頃、ちょっとクールな高校生になって卒業した。
  あれから5年。
  屈託のない笑顔で、
  警察官や大学生としての日常を語ってくれた。
  「先生、高校に入っても英語だけはいい成績とれたよ」
  と言い残し、帰っていった。


  その場で記念に撮った写真には、穏やかな私がいた。
  私は彼らの成長ぶりや心遣いがうれしくて、
  しばらく高揚していた。
  塾を続けた30年間、
  翻訳や創作などやりたいことはほかにあると思っていた。
  

  しかしコロナ禍で塾を閉じて以来、気が抜けてしまった。
  彼らの来訪は、こつこと教えたことが
  私の天職だったと気づかせてくれた。

      (埼玉県深谷市 代田七奈子 主婦 70歳)


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