黒・白・紺・灰は干されて(松本尚樹)

クリッピングから
讀賣新聞2023年12月18日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  黒・白・紺・灰は干されて
  青空と夕空のない僕のベランダ

        富士見市 松本尚樹


    【評】モノトーンの洗濯物で埋め尽くされたベランダ。
       現実には、ただそれだけの光景だが、
       言葉で丁寧に描写することで、
       うまく心象風景と重なった。
       色を干すとした表現や、
       青空、夕焼け空との色の対比が効果的だ。


  ほんとうの手紙はいくつあるだろう
  今日も走れり郵便バイク

         仙台市 小野寺寿子


    【評】最近は、もっぱらダイレクトメールが多く、
       私信が届くのは珍しい。
       そういう現象に加え「ほんとうの」には、
       もう一層「心の真実」のようなニュアンスがあって印象深い。


  真夜中に狼煙のような湯気を上げ
  麺に絡める生活がある

        東村山市 巣守たまご


    【評】充実感みなぎる夜食の歌。
       狼煙(のろし)という勢いのある表現、
       結句のまとめかたも見事だ。


今週のもう1首。


  波のあるひとと云はれて
  ああわたし海だったんだ泳いでいいよ

          陸前高田市 藤田ゆき乃