皇居ランナーたちのメッカ


土曜日、久しぶりの休日出勤となってしまった。
じゃあ、せめて帰りは夕暮れ時の皇居のまわりでも
歩いて帰ろうじゃないか。一足早い春の散歩だ。
空気が肌にひんやりするのが心地いい。



きょうの分、優に一万歩は歩いて、
麹町のバン・ドゥーシュへ。
なにやらフランス料理屋のような名前だが
れっきとした銭湯である。



入り口に置かれたカードにこうある。
「マラソン・ウォーキングは
 当店で着替えて荷物を預けて皇居へ!」。
英語版の説明書きも用意されている。


そう、この銭湯は
皇居のまわりを走ったり歩いたりするランナー、ジョガ−、
ウォーカーたちのメッカであり、オアシスなのである。



道理で、入り口にはスニーカー置き場があるし、
中に入ると銭湯に来たというのに
服を脱いで裸になる代わりに
なにやらランニングウェアに着替えている男たちがいる。
一汗流した後に再びこの聖地に戻り
身体を清め湯船につかるのだ。


バン・ドゥーシュの湯船は
三人も入ったら窮屈だろうというサイズである。
銭湯自体の造りも実にコンパクトで、
どこぞの独身寮の風呂場と言われてもおかしくない。



バン・ドゥーシュは皇居そばという地の利を活かし、
走る人々、ウォーキングする人々のニーズを的確に掘り起こし、
小さなスペースのハンディキャップをものともせず堂々と存在し、
静かだが確実に支持されている。



東京銭湯の旅人である僕は、そんな聖地とも知らず、
今夜はひと風呂お相伴に預かった。
まぁ、僕も、週に二三度は一万歩を歩くウォーカーではあるので、
ここはひとつお許し願いたい。


ちなみに店名のバン・ドゥーシュは
フランス語表記にすると、bain douche。
bainが「風呂」、doucheが「シャワーを浴びる」の意味である。