小西甚一『古文の読解』(1962初版/2010復刊)


小西甚一『古文の読解』(ちくま学芸文庫)を読む。
今年2月10日に復刊され、本屋からあっという間に姿を消した。
わずか3ヶ月で既に第5刷。
僕は2月25日発行の第2刷を購入した。
毎日少しずつ楽しみながら読んで、連休でまずは一回目の読了。


古文の読解 (ちくま学芸文庫)

古文の読解 (ちくま学芸文庫)


武藤康史の愛情がこもった解説によれば、


   小西甚一はあらゆる時代の文学史に通じた
   途方もない学者だった。
   (p.535)



小西の恩師である能瀬朝次(のせあさじ)教授は
小西著『梁塵秘抄考』の「序」にこう書いた。引用する。


   君の熱心な博捜ぶりは、
   君の親友をして資料餓鬼という渾名を呈上せしめ、
   君も欣然としてこれを承認した。
   実に餓鬼の如き物凄い研究ぶりであった。
   そしてそれは大学時代から現在に及んで、
   すこしも変わらない。
   (『古文の読解』pp.533-534)


その小西が大学受験生のために三冊の参考書を書いた。
『古文研究法』『国文法ちかみち』、
そして本書『古文の読解』である。


古文研究法

古文研究法

国文法ちかみち 改訂版

国文法ちかみち 改訂版


著者自身の「はしがき」にこうある。


   それも、ギューギュー詰めの内容と
   眼の色を変えながら格闘するのでなく、
   のんびり散歩するような歩調で、
   たのしく古文の合格点を取ってもらいたい。
   およそ三十年間、入試の出題と採点をしてきた罪滅ぼしに、
   この本を書いた。


受験生のための参考書と侮っては判断を間違う。
大人たちが自国の古典に親しむための、
愛情あふれる、かつ頭脳経済的な(小西の造語)著書である。
500ページほどの例題、解説などを読むうちに
目の前の霧が晴れてゆく。
これまで遠くにあった日本の古典の姿が徐々に見えてきたのだ。


これから古典の森を散策する際にも、
ナイフやコンパスを手に入れたようで心強い。
有難いことだ。



高校生、受験生に独占させておくにはあまりに惜しいと
これまで古典に親しめなかった大人たちが
この本に手を伸ばしたのもなるほどうなずける。


次は小西がひとりで書ききった伝説の辞書
『基本古語辞典』(大修館書店)を復刊してほしい。
「復刊ドットコム」にもリクエストしておいた。


wikipedia:小西甚一
wikipedia:武藤康史


(文中敬称略)