澤地久枝『密約 外務省機密漏洩事件』を読む。
沖縄に関する何冊かのすぐれたドキュメンタリーを読み込んでいくと、
戦後の日米関係にぶち当たる。
「沖縄」に日米関係の過去現在未来が凝縮されているように
僕には思えてくる。
- 作者: 澤地久枝
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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雑誌「通販生活」2010年秋冬号掲載
「落合恵子深呼吸対談」のゲストが澤地であった。
その対談内容にも惹かれるものがあり、
澤地の二番目の著作である本書『密約』を取り寄せることにした。
1978年から実に28年間絶版になっていた著作が、
2006年、岩波現代文庫の一冊として復刊していたのだ。
国家と個人の利害が相反したとき、
およそ個人に勝ち目が少ないことは歴史が証明している。
毎日新聞の記者だった西山が、外務事務官だった蓮見から情報を入手し、
佐藤内閣が沖縄返還に関し、アメリカと密約を交わしていたことをあばく。
「返還にあたり、本来、米国が支払うべきであった
返還軍用地復元費用四百万ドル。
日本はその肩代わり支払いに応じ、
アメリカが支払ったように見せかける外交文書の作為をおこなった。
それが私の追った「密約」のテーマである。」
(本書 p.321「沈黙をとくー2006年6月のあとがきー」より引用)
- 作者: 若泉敬
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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(注: 若泉敬が著書で明かした核に関する日米の密約と
西山、澤地が追求した密約は内容が異なる)
西山が蓮見と「情を交わして」情報を得たことが世間に暴露されるや、
国家対個人の問題が、下世話な男女の下半身問題に
たくみにすりかえられていく。
ジャーナリスト、国家公務員としてのモラルを国家は突いてくる。
そのさまを事件の発端から後日談まで
硬質な筆致で追いかけ文字に定着したのが澤地の『密約』である。
僕にとって圧巻は「第12章 告白2」である。
思いがけない人物が現れ、その告白を澤地が書き留めたことで
マスコミが作りあげてきた「被害者・蓮見喜久子」の像が揺らぎ始める。
真実とはなにか。
そのことを読者とともに考え抜くためにこの章は書かれた。
僕たちは日々知らず知らず、
顔なきマスコミの圧倒的多数の意見に流されやすい。
事実関係を根気よく確認しながら自身の洞察を深めるより、
一時的に感情をあおられ
断定的な結論に一直線に向かう危険と常に隣り合わせである。
他人の意見がいつの間にか自分の意見にすりかえられたことに気づくのは
ずっと後のことになる。
- 作者: 角田房子
- 出版社/メーカー: 新潮社
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日本のジャーナリズム、ドキュメンタリーの系譜には
女性作家の活躍が確かにあって頼もしい。
澤地より二世代ほど前には、
『閔妃(ミンピ)暗殺 朝鮮王朝末期の国母』の角田房子。
最近の世代では『ルポ 貧困大国アメリカ』の堤未果。
すぐれた仕事に男女の区別はないが、
男性作家に明らかに欠落している視点を提供してくれることで
僕たち読者はようやく複眼の思考を維持・更新できるように思えるのだ。
澤地久枝の作品は今回初めて読んだが、
そうした女性作家の系譜に連なるひとりであると思えた。
- 作者: 西山太吉
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- 作者: 西山太吉
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1978年5月31日。
最高裁上告棄却の決定、西山の有罪確定。
それから、33年が過ぎようとするが
沖縄密約問題の全貌はいまだ解明しきれていない。
すべてを歴史の闇の中に葬ろうにも
普天間基地移設問題が引き金となり鳩山内閣がつぶれたのは2010年、
昨年6月のことだ。
- 作者: 守屋武昌
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どの政党が政権を取ろうと、誰が総理になろうと、
はたまたあなたや僕のような市井の一個人であっても
日米関係に目をつむって日々をやりすごすことはできない現実がある。
澤地の書いた本書はそうした問題を考えるための貴重な材料を
僕たちに提供しているように思う。
それは国家や大組織に立ち向かうことは到底かなわぬとあきらめなかった
一個人の仕事である。
(文中敬称略)