原始的な手作業の喜びを忘れぬ仕事。『ヒストリエ』(2004-)


岩明均(いわあき ひとし)『ヒストリエ』を読む。
2004年から2010年までに発刊された1-6巻である。
舞台は紀元前四世紀、古代オリエント
後にアレクサンドロス大王の書記官となったエウメネス
少年時代からの物語である。


ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)

ヒストリエ(1) (アフタヌーンKC)


貴族の息子として育てられたエウメネス
実は征服されたスキタイの奴隷の身分であったことを
突然明かされる。義父が殺された裁判でのことだ。
そもそもスキタイの勇士であった母は、
幼少のエウネメスを人質に取ったギリシャ兵士たちに惨殺される。
エウネメスはおぼろげにその事件を記憶している。
およそ歴史的真実というものは
こうした冷徹な事実の集積なのだろう。
岩明は登場人物たちからほどよい距離を取り
語り部エウメネスの影を物静かに務める。



               (第6巻 pp.156-157より引用)


画がいい。
先頃開催されたメディア芸術祭入賞作品展で
原画が展示されていた。
ここまで緻密な線で構成するのかと驚くほど、
人物も動物(馬がその代表)も一コマ一コマ丁寧に描かれている。
岩明はマンガ部門大賞受賞でこうあいさつした。


  「私がやってるのは紙やペンを使う原始的な作業。
   先進的な賞の中にあっても、
   原始的な手作業の喜びというものを忘れないような仕事を
   していきたいと思っています」


              (「コミックナタリー」より引用)


一年に一冊のペースの仕事量を「面目ない」と岩明は詫びる。
しかし、時間をかけた取材、手作業の喜びを忘れぬ職人の技がなければ
こうした壮大なスケールの作品は生まれない。
物語はまだ序章だが、ぶっちぎりの大賞受賞であった。



新国立美術館のマンガコーナーで読んだ続きと、
そのとき見つからなかった第一巻が読みたかった。
めったに行かないマンガ喫茶に行こうと思ったが
繰り返し読みたい傑作ゆえに、アマゾンでの全巻購入を決めた。
こうした作品に出会えると、
マンガが日本の誇る文化であることを再確認する。



この先、物語はどこまで続くか分からぬが、
岩明には心身の健康に気をつけて描き進めてほしい。
作品を購入することで、僕は一読者として
岩明のマンガ家人生を応援していきたい。


wikipedia:岩明均


(文中敬称略)