河田惠昭『津波災害ー減災社会を築く』(2010)


情報化時代はとうの昔に過ぎ、
情報過多時代、情報混沌時代を生きている。
後で知れば必要な知見はそこにあったのに、
それ以前にはとんと気づかない。うかつであった。
帯にこうある。


   必ず、来る!


   災害研究の第一人者が示す
   備え、対策、そして実践


無論、3.11以前に書かれた惹句であろう。
本屋で目にしたとき、ドキッとした。


津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)


河田惠昭『津波災害ー減災社会を築く』を読む。
著者は現在関西大学社会安全学部長・教授であり、
阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長を兼務している。


   私が読者にとくに伝えたいことは、
  「避難すれば助かる」という事実である。
   そのためには、まず津波に関する知識の絶対量を 
   増やすことが先決である。
   これらの知識で新しい”常識”を身につけるのである。


               (本書「まえがき」p.iiiより引用)



しっかりとした知識に基づく避難を
河田は「生存避難」と名付ける。
津波防災・減災対策を進めるためには
文理融合型の研究・教育組織が必要だが
日本のみならず世界でも皆無である。
それが本書執筆の動機となった。
新書一冊分の情報量で
僕たちが津波から生存避難するための実践的知識が得られるのだ。
著者30年の津波災害研究のエッセンスである。



読んでいて目ウロコの記述がいくつもあった。
例えば津波が高波、高潮とはまるで違うこと。
津波は海面が盛り上がった高さだけではとらえられない。
海面から海底まで数百メートルから1km近く
ほぼ水平に水が動き、その力が減衰しない。
つまり、海の深さに等しい巨大な水の固まりが
スピードを落とさずに移動してきて陸地を直撃する。


そして防波堤にぶつかると
行き場をなくした水粒子の運動エネルギーが位置エネルギーに変換される。
そのとき海面の高さが1.5倍になる。
5メートルの津波が7.5メートルになる計算だから
5メートルの防波堤をやすやすと越えてしまうのだ。



河田が主張してきた言葉、
「水は昔を覚えている」が恐ろしい。
引用する。


   昔、海だったところや湿地帯だったところに
   市街地などが発達しても、
   いったん、洪水や高潮、津波はん濫が起こると、
   昔に戻って、また海や湿地帯に戻るということである。


   (本書p.136より引用)



本書を読んでいると、
3.11の東日本大震災によって起きた津波災害を
河田はまるで事前に見てきたように正確に予言している。
マグニチュード9.0。
観測史上世界第四位の大地震であったことだけは
著者の予想を越えていたかもしれない。


すべての災害を100パーセント防ぐことはできないが、
「減災」する社会を築くことはできると河田は主張する。
そのためには個人の知識量を増やすだけでは不足している。
自助、共助、公助、産助。
地域コミュニティ、自治体、政府、企業などと連携した
集団実地訓練を繰り返し、知識を実践に結びつける不断の努力が要る。
備えの実現はたやすいことではない。


(文中敬称略)