宮崎市定『隋の煬帝』(1965, 1959初出/1987文庫版)


宮崎市定『隋の煬帝』を読む。
国史上で悪名高い煬帝の生涯を独自の視点で読み解く。


隋の煬帝 (中公文庫BIBLIO)

隋の煬帝 (中公文庫BIBLIO)


礪波護の解説にこうある。


   軽やかな筆致でつづられた本篇が、
   この付篇のごとき厳密をきわめた文献考証の積重ねによって
   裏打ちされていることを知って驚嘆される方もおられるだろう。


                          (p.270)



確かにそうなのだ。
宮崎の文章を読んでいると煬帝の頃の中国王室や
それを取り巻く人物模様がくっきりと浮かび上がってくる。
権力への欲望、そして肉親同士が疑い殺戮しあう世界である。



宮崎の文章は付篇「隋代史雑考」を読めば分かるとおり
史料を注意深く丁寧に読み解くことから生まれる。
決して面白おかしく読ませるための創作ではない。
漢文ばかりのこうした史料を独力で読むのは僕には難しい。
宮崎の本篇と読み比べてようやく中身が想像できる。



宮崎はこれまでの歴史学の常識を疑い、
それをくつがえす論考をたびたび試みる。
こうした史料に別の角度から光を当て
文脈を探し出す地道な作業の果てに新学説が誕生する。
宮崎の高弟・礪波が「隋代史雑考」を文庫に収めた意図は
そうした宮崎の思索過程を読者に示すためにある。



碩学であり異端児。
歴史の見方を変えるための補助線を随所に持つ著作。
宮崎との対話は今年もやめられない。


(文中敬称略)