高峰秀子『わたしの渡世日記(上)』を読む。
いやぁ、べらぼうに面白い。
既に定評のある著書ではあったが、
なぜかこれまで手にする機会がなかった。
新潮文庫に入った今回、ようやく読むことができた。
- 作者: 高峰秀子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/12/24
- メディア: 文庫
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満足に学校に行けなかったことは
高峰の終生のコンプレックスだったが
この筆力はどうだろう。
観察力、記憶力、表現力の三つが揃わなくては、
こうした文章は書けない。
日米親米大使としてアメリカに行った田中絹代が
帰国時にサングラスで投げキッスをしたことから四面楚歌となる。
「鎌倉山のね、私の家のそばに崖があるでしょう?……
あそこから、飛び降りようと、したの……
何度も何度も、ね。
そうすればみんなお終いになるから……」
高峰はそうした田中の言葉を正確に記憶し再現する。
人生最大の危機を乗り越えた田中に紫綬褒章がおくられたとき
高峰は誰にともなく「ざまあみやがれ……」と吐き出す。
なんと胸がすく台詞だろう。
若き日の黒澤明がロケ終了後に
ひとり布団部屋にこもって脚本を書き続けていたこと。
敗戦後、山本嘉次郎が酒とヒロポンにおぼれ
「過去の人」になっていったこと。
高峰の視点からの日本映画史でもある。
(文中敬称略)