岡田英弘『日本史の誕生』(1994/2012文庫版)


岡田英弘『日本史の誕生』を読む。
通史の日本史概説ではない。
国史、モンゴル史、満洲史を専門とする岡田が
これまでの日本史の常識に挑む書だ。
いくつか僕の印象に残った箇所を引用する。


日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)

日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫)


   結論を一言で言えば、
   日本の建国者は華僑であり、
   日本人は文化的には華僑の子孫である。
   (中略)
   そして「魏志倭人伝」は、
   まさにその前夜の情勢を伝えてくれる、
   えがたい史料なのである。
   (p.56)


   『古事記』は太安万侶(おほのやすまろ)より
   ずっと新しい時代のもので、
   九世紀の平安朝初期の偽作である。
   日本最古の古典は『古事記』ではなく、
   七二〇年に完成した『日本書紀』である。
   (p.246)



   日本列島の倭人たちはそんな弱体の状態で、
   唐という世界帝国と、
   それと同盟して韓半島南部を統一した
   新羅という宿敵に直面したのだ。
   (中略)
   そうした危機に対抗してとられた措置が、
   それまでの倭国とその他の諸国を、
   一度解体して再統合すること、
   すなわち、日本の建国だったのだ。
   これによって、倭人も、
   その他の中国人などの多くの種族も、
   一つの国民となって日本人と総称されるようになった。
   (p.170)



これだけ読んでも僕たちが中学高校で習った日本史とは
ずいぶん違うことに気づくだろう。
もちろん岡田は思いつきだけで書くのではない。
史料を読み、史料を疑い、
かつ日本側の史料だけでなく
中国、満洲韓半島の史料と対比しながら読み解く。
東アジア、もしくは中央アジアの中の日本史である。


   (前略)
   歴史は、誰にでも手を触れて見られるような、
   客観的な実在ではない。
   問答無用の「客観的な歴史的事実」などというものは、
   厳密に言ってありえないのである。
   歴史は、われわれの意識の中だけに存在する、
   世界の見方、ものの見方の体系である。
   (pp.331-332)
 


岡田の世界の見方、ものの見方に
賛成するにせよ、反対するにせよ、
本書は自分の見方を広げてくれる。
僕自身はどうかと問われれば、
大変興味を持ったが、すべてに賛成することはできない。
岡田が史料から読み解いた点と点を結ぶ線が
あちこちで飛躍している。
想像、もしくは創造としては面白いが、
すべて納得とはいかない座りの悪さがある。


本書は岡田がこれまでに雑誌、論文集などに書いた文章、
講演原稿の整理、単行本化にあたって書き下ろした文章を編集し、
弓立社宮下和夫社長の熱意で一冊にまとめた。
そのため一気通貫した日本史概説としての迫力は欠く。
岡田が従来の学説に異論を持った重点箇所を
集中的に突破する試みの書と僕は読んだ。
代表作『世界史の誕生』と併読すれば一層面白い。


世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)

世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫)


(文中敬称略)