『日本語のために』から『古典基礎語辞典』へ


予約していた『実用英文典』を受け取りに
帰宅途上の金曜夕方、A図書館に寄る。
新刊書の棚は帰り際に必ず覗く。
ここの購入を担当している司書と趣味が合うのか、
僕が読みたいと思う本が見つかることがたびたびある。
注目していた池澤夏樹個人編集「日本文学全集」(全30巻)最新刊、
『日本語のために』を手に取り、借りることにした。



あとがきに池澤が記している。


   何かおかしな本ができてしまった、
   というのが編集を終えた今の感慨。
   この「日本文学全集」は
   古代から現代までを貫く歴史の意識に導かれている。


   その一方で日本ぜんたいという
   地理的な広がりを求める気持ちもある。
   その上にできるだけ多種多様な文体を収めたい
   という望みが重なる。
   それらすべての意図を
   集約的に具体的しようと試みたのがこの一巻だ。


   結果は人工衛星の高さにカメラを据えて、
   八世紀から二十一世紀までの間に
   この列島の全域で起こった言語現象を
   微速度撮影で撮った動画のようなものになった。


                    (本書p.523より引用)


家に戻ってパラパラ頁を繰っていると、
「1 古代の文体/古典基礎語辞典 大野晋編著」が目に止まった。
国語学者大野晋が生涯最後に編んだ辞典で、
主要古語3,200語を取り上げ、
語源・語誌を重視して懇切丁寧に説明している。


池澤は余計な解説を加えることなしに
「なる」「こと」「もの」「なさけ」「しほ」「こふ」6語について
原著から引用している。
後は読者の判断、考えに委ねたいという編集姿勢が潔い。


古典基礎語辞典

古典基礎語辞典


大野の生涯の研究テーマであった南インドタミル語と日本語の関連が
掲載語末に詳細に記されているのも大きな特徴だ。
辞書オタクとしては、この内容は見逃せない。
2011年に角川学芸出版から出版されていた。


wikipedia: 池澤夏樹
wikipedia: 大野晋


(文中敬称略)