柚木麻子『その手をにぎりたい』(小学館、2014)


この人は構成がうまいなぁ、と思う。
章立ては「ヅケ」「ガリ」「イカ」「ウニ」「サバ」
「トロ」「ギョク」「タコ」「エビ」「サビ」
と鮨に関係した言葉を並べる。


その手をにぎりたい

その手をにぎりたい


1983年から92年までの東京銀座を中心とした舞台で
女性OL本木青子(もときせいこ)が高級鮨店「すし静」職人、
一ノ瀬さんにほのかな恋心を抱く物語。
柚木麻子『その手をにぎりたい』を読む。
小学館、2014/初出「きらら」2012〜13)


バブル渦中から弾けるまでの時代を
時々に流行った言葉、唄などの固有名詞を散りばめ、再現する。
当時20代から30代の社会人だった僕は、
「ああ、こんなふうに空気が流れていたっけ。
僕も渦中のひとりだったんだな」と記憶を新たにする。
バブルを体験していない若い読者たちに
その皮膚感まで伝えられるのか、どうか。


栃木のかんぴょう農家の家庭で育ち、上京・就職。
うぶだった青子はやがて不動産会社のやり手営業として
バリバリ仕事をこなすようになる。
座るだけで三万円とられる「すし静」に
身銭でときたま通える身分になる。


そして、バブル崩壊
自分も周囲もすべてが変わる。
スタッフと役者、予算と時間に恵まれれば、
上質のテレビドラマになるだろうな、と思う。
(NHKが2016年、オーディオドラマにしている)


デビュー作、その後の作品を読んでいくと、
ナイルパーチの女子会』に至る作家の成長が確かめられる。
文章がいいから、読みやすい。
肩も凝らなくて、息が抜ける。
タイトルの付け方にも、ユーモアのセンスを感じる。


終点のあの子

終点のあの子

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

ナイルパーチの女子会 (文春文庫)

wikipedia:柚木麻子
(文中敬称略)