村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』(2000/新潮文庫2002)


2013年から17年にかけて
NHKラジオで放送された英語学習番組「英語で読む村上春樹」
初年度後期(2013〜14年)に沼野充義講師が取り上げた作品が
「かえるくん、東京を救う」だった(英訳:Jay Rubin)。
この作品を含む6作の短編集『神の子どもたちはみな踊る
(2000/新潮文庫2002)を読む。


神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)

神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)


1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から5年後に発表され、
6編に登場する人物はいずれもどこかでこの地震に関係している。
読後の空白感がなんとも言えない余韻を残す連作だ。
例えば冒頭に収められた「UFOが釧路に降りる」はこんな風に終わる。


   小村は気持ちを静め、部屋を見まわし、
   それからもう一度枕(まくら)に頭を埋めた。
   目を閉じ、深く息をついた。
   ベッドの広さが夜の海のように彼のまわりにあった。
   凍(い)てついた風の音が聞こえた。
   心臓の激しい鼓動が骨を揺さぶっていた。



   「ねえ、どう、遠くまで来たって実感が少しはわいてきた?」
   「ずいぶん遠くに来たような気がする」と小村は正直に言った。
   シマオさんは小村の胸の上に、
   何かのまじないのように、指先で複雑なもようを描いた。
   「でも、まだ始まったばかりなのよ」と彼女は言った。


最後の一行がなんだか怖い。
小村とシマオさんはきょう釧路空港で知り合ったばかりで、
その夜、当たり前のようにベッドを共にする。
なにが始まったばかりなんだろうと想像すると、
あまり楽しそうでない近未来が浮かんでくるのだ。



(僕が持っている文庫はJohn Gallカバーデザインのバージョン)


村上春樹「かえるくん、東京を救う」英訳完全読解

村上春樹「かえるくん、東京を救う」英訳完全読解

(お風呂でJay Rubinの英文を朗読すると気持ちいいですよ)