A・ジュリアン『こどもが教えてくれたこと』(2016)


スクラップブックから
朝日新聞2018年7月20日朝刊「ひと」
闘病中でも「今を生きる」子どもたちを映画に撮った
アンヌドフィーヌ・ジュリアンさん(44)



   パリでジャーナリストとして
   雑誌や新聞に執筆していた12年前、
   長女が「異染性白質ジストロフィー」だと診断された。
   視覚や聴覚などを失い、動けなくなる病だ。
   折しも2歳の誕生日。
   「世界が崩れる思いだった」


   寝たきりになった長女のベッドに近づくと、
   顔を背けられた。
   反対側に回っても同じ。
   顔をのぞき込むと、のどをかすかにならして笑った。
   かくれんぼだった。


   命は3歳でついえた。
   次女も同じ病で10歳で逝く。
   「自分の人生を悲観せず、精いっぱい楽しむ子どもの力を
   多くの人に伝えたい」。
   その表情、その言葉を。
   ドキュメンタリー映画を撮ると決め、
   小児がんや腎臓病などを患う5〜9歳の5人に密着した。


   少年が治療の苦痛に顔をゆがめる。
   カメラを止めようとすると
   「これを撮らないなら僕たちの日常にはならないよ」。
   少女は「悩みは脇に置いておくか付き合っていくしかない」。
   撮るのがつらくなると、自分に言い聞かせた。
   「伝えるべき子どもの力がある」。
   撮影は100時間を超えた。
   (略)
              (文・写真 中井なつみ)



作品の邦題は「子どもが教えてくれたこと」。
日本でも公開中。