<ふさぎの虫>が目覚めてきたのです(五木寛之)


聞き手(木元健二)がいいのかなぁ。
五木寛之の話が面白い。
スクラップブックから
朝日新聞2018年10月3日朝刊
語る—人生の贈りもの—
京都の片隅でひっそりと 作家 五木寛之(第13回)



   何をしているのか分からないような忙しい暮らしから
   足を洗って、どこかの町の片隅で静かに暮らしたい、
   週刊朝日大橋巨泉さんとの対談で
   そんなことを喋(しゃべ)ったところ、
   流行作家の「休筆宣言」という見出しで
   ちょっとした騒ぎになりました。
   (略)


   本気でそう考えていたんですね。
   そもそも引き揚げ者として
   奇(く)しくも命をながらえて、
   食べていけるだけでいいと根っこでは思っていたのです。
   引き揚げ以来、ずっと心に巣くっていた<ふさぎの虫>が
   目覚めてきたのです。


   昭和47年(1972)年、
   京都の聖護院で暮らしはじめましたが、
   再起できなくても仕方がない、と覚悟していました。
   休筆といっても近くのジャズの店「YAMATOYA」などに
   下駄(げた)ばきで通ったり映画を見たり、
   動物園にいったりと、やることはたくさんあった。


   そんなふうにしているうちに、
   少しずつ回復するものがあったのです。
   南米チリで社会主義政権が倒されたクーデターに
   着想を得た小説『戒厳令の夜』の構想なども
   ふくらんできたのです。
   (略)


休筆していた聖護院時代の五木の暮らしを想像してみると、
それはそれで充実した時間ではなかったか。
もっとも後から振り返った語りだけに、
そのときの先の見えない心境は
たとえ本人でも精確には再現できるものではないだろうな。
過去は美化したり、物語にしてしまいがちだから。


インタビューに触発されて
五木の初期中期の小説を読んでみたいと思った。


戒厳令の夜 上 (新潮文庫 い 15-9)

戒厳令の夜 上 (新潮文庫 い 15-9)