『五木寛之セレクション I 国際ミステリー集』(東京書籍、2022)

巻末51頁に及ぶ対談解説(佐藤優五木寛之)が質量ともに圧巻。
五木寛之セレクション I 国際ミステリー集』(東京書籍、2022)を読む。



「対談解説」から引用する。


  五木 今回、自分の昔の作品が50年経っても読んでもらえる
     とは思いもしなかったし、
     とてもラッキーだと思います。
     僕が新人デビューした頃には、
     いつも花火のような小説が書きたいなって言ってた。
     ドーンと上がって、一瞬で消えるけど、子供のときの……。


  佐藤 記憶には残ります。


  五木 記憶には残るんだよね。
     だから記録には残らなくても記憶に残ればいいなって、
     そんな感じがあったのですけど。
     人の記憶っていうのは、
     だいたい一世代30年くらいだろうと思っていたから。


     なぜ、今度このテーマ別セレクションという企画に全面的に共鳴して、
     意欲を燃やしているかと言いますと、
     例えば池波正太郎さんにしても、今の時代小説の書き手にしても、
     純乎たる一つの世界っていうものがあるじゃないですか。
     例えば下町の河岸を男が懐手しながら歩いていたって始まれば、
     もうその情景が自然に浮かんできて、
     読者はそれだけで、すっとその作者の世界に入っていけますよね。
     ところが僕の場合には五通りぐらいのジャンルがあって、
     バラバラなんですよ、書いてる世界が。


  佐藤 なるほど。


  五木 音楽の世界とか車の世界とか、外国の小説とかね。
     だから例えば『冬のひまわり』(1985年)みたいな恋愛小説を読んで、
     私はこういう世界が好きだからって次の僕の新刊を読んでみたら
     全然違うタイプの小説で、なんだこれはっていうふうに
     がっかりする人がいるわけですよ。


     だからこの辺でいっぺん整理して、
     これは伝奇的な小説です。これはミステリーです。これは恋愛小説です。
     これは音楽芸能の小説です、というふうに、
     読む人たちが自分だけの好みのテーマを選んでいけるシリーズにしたい
     と思ったところもあるのです。
     好きなジャンルだけを読めるように。


  佐藤 なるほど、要するに
     五木さんの魂に対応した巻構成になっているわけですね。


  五木 そういう感じですね。
     本当にひとつの世界をずっと描き続けるっていうことが、
     つまり日本では一芸に秀でるっていうことになって尊重されるんですけど、
     僕はもう自分が分裂しているというか、八方破れなんだよね。
     例えばミステリーに強い興味があり、
     自分ではミステリーを書いている意識はないんだけど、
     結果的にミステリーになってる、とか。

                             (pp.335-336)


僕は第1巻の「国際ミステリー集」を読んで、
他のジャンルを五木作品も読んでみたくなった。
佐藤優さんが「純文学と大衆文学の壁を壊した」と指摘した作品群を。


このセレクションの全容はまだ発表されていない。
「海外ロマン小説集」「サスペンス・幻想小説集」「恋愛小説集」
「ユーモア小説集」以下、続刊予定とだけ予告されている。
今回「国際ミステリー集」に収録されたのは以下三作品。


  「青ざめた馬を見よ」(1966)
  「夜の斧」(1968)
  「深夜美術館」(1975)