柚木麻子『BUTTER』(新潮社、2017)

 

 

「アッコちゃん」シリーズ

食べ物の描写に力がある作家だなぁ、と感心していた。

本作は題名が象徴するように食べ物の描写と

二人の女性主人公、梶井(連続殺人事件容疑者)、

里佳(雑誌記者)の心理戦が絡まる展開に目が離せなかった。

柚木麻子『BUTTER』(新潮社、2017)を読む。

  

BUTTER

BUTTER

 

 

木嶋佳苗の事件に想を得た作品。

梶井が付き合っていた裕福な男性たちの不審死の謎は

最後まで解き明かされない。

父の死に後ろめたい思いを持つ里佳は、

長く付き合ってきたボーイフレンド誠にも心を開くことができない。

親友の伶子、ネタを提供してくれる篠井とは

一定の距離を保ちながらも信頼関係を結べている。

 

どんな結末を迎えるのかハラハラして読み進んだ。

ネタバレにならないように一部を引用してみる。

 

   これからも暮らしていく中で、

   たくさんのオリジナルのレシピを生み出したい。

   その中でもとっておきのものを、誰かに伝えたい。

   好きな相手でも苦手な相手でも、

   会ったことのない相手でも、構わない。

   その人もまた、里佳のレシピに手を加えて、

   自分のものにするだろう。

 

   自分が味わったような心の流れや喜びを

   もし誰かが経験してくれたら。

   それだけで里佳の胸は躍る。

   そうやって、自分が考えた名もなきものが、

   色や形を変えながら、世界に波紋のように広がっていけばいい。

   スープに加えた最後の一滴の隠し味のように。

   そんな連鎖を心のどこかでかすかに感じながら、

   生きていきたいと思った。

 

   梶井に今、会いたい。

   会って、こう伝えたい。

   この世界は生きるに、

   いや、貪欲に味わうに値しますよ、と。

                     (p.460)

 

ラストシーンではバターを使った七面鳥の料理が

重要な役割を演ずる。

それは読んでのお楽しみにしておきます。

 

 カバー装画の原裕菜、新潮社装幀室がいい仕事をしている。

名前は記されていないけれど、

新潮社には優れた社内デザイナーがいますね。

 

   初出:「小説新潮」2015年5月号〜16年8月号

       単行本化にあたり、加筆・修正

 

ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

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