お待ちかねの連載記事です。
朝日新聞2019年1月25日朝刊
「池上彰の新聞ななめ読み」
新聞を読むプロ中のプロ、池上さんが
最近一ヵ月のテーマで何を取り上げるか。
読者に親切な記事の書き方について
具体的な公開セミナーの場でもあります。
さて、1月は。
勤労統計不正 問題の焦点 より丁寧に
厚生労働省の「毎月勤労統計」の不正調査には
驚きを通り越してあきれるしかありません。
これは厚労省の担当者による悪意ある捏造(ねつぞう)なのか、
それとも統計の意味を理解しない無能ゆえの所業なのか。
(略)
この問題について、朝日新聞は連日大きく報道しています。
この問題意識はいいのですが、記事となりますと、
もう少し読者に親切な表現にしてほしいと言いたくなります。
読者の多くは「統計」という文字を見ただけで、
その先へ読み進む意欲を失ってしまうからです。
たとえば1月22日朝刊の1面には、先の表現があります。
<この統計は賃金の動向などを毎月調べて発表するもので、
政府の「基幹統計」の一つ。
従業員500人以上の事業所はすべて調べるルールだが、
厚労省は2004年から東京都分の約1400事業所のうち、
約3分の1を勝手に抽出して調べていた>
これが問題のポイントですが、
統計に詳しくない読者が初めて読んだときには、
これのどこが問題なのかピンと来ない恐れがあります。
東京都内の従業員500人以上の事業所といえば、
大企業の割合が高くなります。
給料も中小企業よりは多いでしょう。
そうした企業を3分の2も排除して集計したのであれば、
勤労世帯の平均給与は実態より低く出ます。
今回の事件の概要を説明する記事では、
煩わしくてもここまで丁寧に書いておいた方がいいでしょう。
こうして実態より低く出た数字が
雇用保険や労災保険の給付額に反映されていたわけですから、
多くの人への支給額が低くなってしまいました。
単なる統計上の数字の問題ではなく、
実に大勢の人に実害を与えたのです。
池上さんの指摘・修正は具体的です。
これなら問題のポイントがどこにあるかよく分かる。
僕が二ヵ月に一回もらっている「高年齢雇用継続基本給付金」を
減らされていた可能性があるんだな。
でも、そうであったとしても、国は返す気はないんだな。
自分の身に置き換えて考えることもできます。
新聞記者のみなさん、池上さんをうならすような
読者にわかりやすい、親切な記事を頼みます。
池上さんは今月のコラムを次の一文で締めくくります。
政府の発表が信じられないとは、
恐ろしいことです。