スクラップブックから
朝日新聞2019年4月26日朝刊
池上彰の新聞ななめ読み
スリランカのテロ 犯行組織像 どう書くか
毎月最終金曜日の朝日朝刊は
この連載が見逃せません。
池上さんがこの一ヶ月の記事で何を取り上げるか。
主要各紙を比較してどう読むか。
興味津々です。
新聞を読み解く紙上ワークショップに参加している気分です。
スリランカの爆弾テロは衝撃でした。
インド洋に浮かぶスリランカといえば、
「平和な島」のイメージが強かったからです。
私が勤務する東京工業大学の学内には
「スリランカ短期留学」のポスターが貼り出されていましたが、
事件後、「中止」の知らせが貼られました。
まずはスリランカに日本人が持つ一般的イメージ、
池上さんの職場である東京工業大学の風景をスケッチするところから
稿を起こします。
何気ない書き出しに見えますが、
ジャーナリストの視点なくしてこうは書けません。
(略)
事件が起きたのは4月21日。
日本のメディアはどこもスリランカに支局を置いていないため、
記者が現場に到着するまでの間は、
外電や現地への電話取材で原稿を書くしかありません。
歯がゆいことです。
そうなんだ。
スリランカに支局に持つメディアは日本にひとつもないんだ。
当のメディアはそんな舞台裏の事情は決して説明しませんから
池上さんの指摘がなければ読者は気づきません。
朝日の場合、22日付朝刊ではAP通信やAFP通信、
ニューヨーク・タイムズの取材などを材料に記事を組み立てています。
この段階では、いったいどこの組織が事件を起こしたのか、
皆目見当がつかなかったのですが、
読売新聞は、同日付朝刊で、
仏教徒の犯行の可能性もあるとにおわせています。
それが、次の記事です。
<スリランカでは近年、仏教徒の過激派の動きが活発化しており、
少数派のイスラム教徒が襲撃される事件が相次いでいる。
(中略)仏教徒には少数派を排除したい思惑が強いとみられ、
今回はキリスト教徒が標的にされた可能性も否定できない。
実際、キリスト教徒への迫害は起きており、(中略)
今年に入ってからも、仏教僧がキリスト教会の日曜礼拝を
妨害しようとするようなことがあったという>
随分と思い切った文章です。
これを読んだ読者は、
「仏教過激派による爆弾テロか」と思い込むかもしれません。
しかし、この時点で仏教徒によるテロだと推測できる材料はありません。
もし私がデスクだったら、書いた記者に、
「ちょっと待て。仏教過激派とは限らないだろう。
イスラム過激派の可能性もあるのだから、
ここまで書き込むのはやめておけ」と指示したでしょう。
自分がデスクだったらこう指示するだろう。
具体的な指摘が読者に親切です。
さらに池上さんは、スリランカ政府が発表した犯行の団体名
イスラム過激派組織「ナショナル・タウヒード・ジャマート」
(朝日記事表記による)に触れてコラムを閉じます。
(略)
この点、読売は当初の解説記事で勇み足がありましたが、
24日付朝刊では1ページの半分以上を使って解説しています。
<組織名に使われているタウフィートはアラビア語で
「神が唯一と信じること」、ジャマアットは「団体」を意味する>
朝日は「ジャマート」ですが、読売は「ジャマアット」を使用しています。
ここは呼び名が定着していないにせよ、
読売の記事で組織のイメージが浮かびます。
朝日は早々と固有名詞を出しただけに、
せめて団体名を解説してほしいところでした。
朝日連載のコラムですが身びいきはありません。
今月は読売と朝日を比較して
新聞を読み解くスキルを僕たちに教えてくれました。
毎月、読み応えがあります。