俵万智『考える短歌—作る手ほどき、読む技術』(新潮新書、2004)

読売歌壇(讀賣新聞朝刊に毎週月曜掲載)の短歌選評が印象に残り、
この本を古書店サイトで注文した。
俵万智『考える短歌—作る手ほどき、読む技術』(新潮新書、2004)を読む。


考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)

考える短歌―作る手ほどき、読む技術 (新潮新書)


「はじめに」から引用する。


   短歌は、心と言葉からできている。
   まず、ものごとに感じる心がなくては、歌は生まれようがない。
   心が揺れたとき、その「揺れ」が出発点となって、作歌はスタートする。


   それは、人生の大事件に接しての大きな心の揺れであるかもしれないし、
   日常生活のなかでのささやかな心の揺れであるかもしれない。
   いずれにせよ、日頃から、心の筋肉を柔らかくしておくことが、大切だ。
   そうすれば、さまざまな揺れに、柔軟に対応することができるだろう。
                                (p.7)
   (略)
   ついでに言うと、道具という点では、
   これほど手軽なジャンルも、珍しいだろう。
   あなたは、絵の具を揃えたり、カメラを購入したり、
   楽器を準備したりする必要は、一切ない。
   鉛筆一本とメモ用紙があれば、
   とりあえず今日からでも、はじめられるのだから。
                           (p.9)


本書は「実践編」「鑑賞コーナー」の二部構成。
実践編は、季刊「考える人」2002年夏号〜04年春号に連載した
「考える短歌」投稿句から優秀作を一点、他に数点選び、俵が添削する。
鑑賞コーナーでは実践編で取り上げたテーマに関連した
プロ歌人の句を選び、鑑賞のツボを教える。


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第一講から第八講までで取り上げた添削のポイントは以下の通り。
どれも具体的で即実作に応用でき、
投稿句が添削前と添削後でガラリと変わるのを見て、勉強になった。


   第一講 「も」があったら疑ってみよう。
       鑑賞コーナー① 必然性のある「も」
  

   第二講 句切れを入れてみよう
       思いきって構造改革しよう
       鑑賞コーナー② 潔い句切れ


   第三講 動詞が四つ以上あったら考えよう
       体言止めは一つだけにしよう
       鑑賞コーナー③ 動詞を重ねるには
       鑑賞コーナー④ 体言止めの実際


   第四講 副詞には頼らないでおこう
       数字を効果的に使おう
       鑑賞コーナー⑤ 数字の重み


   第五講 比喩には統一感を持たせよう
       現在形を活用しよう
       鑑賞コーナー⑥ 比喩の力
       鑑賞コーナー⑦ 現在形の迫力


   第六講 あいまいな「の」に気をつけよう
       初句を印象的にしよう
       鑑賞コーナー⑧ 初句あれこれ


   第七講 色彩をとりいれてみよう
       固有名詞を活用しよう
       鑑賞コーナー⑨ 様々な色、それぞれの意味
       鑑賞コーナー⑩ 固有名詞の効果


   第八講 主観的な形容詞は避けよう
       会話体を活用しよう
       鑑賞コーナー⑪ 主観をどう表現するか
       鑑賞コーナー⑫ 会話の応用


『サラダ記念日』で俵が読書界に登場した頃を思い浮かべる記述があった。
第八講「会話体を活用しよう」での講義の一節だ。


   現在は、口語体で多くの短歌が詠まれている。
   私が短歌をつくりはじめたころは、まだ少数派だったが、
   今を生きる自分の思いを表現するために、口語を取り入れることは、
   ごく自然なことだった。


   三十一文字に口語をなじませる方法として、とても有効だったのが、
   会話体を使うことだ。
   はじめから明確に意識していたわけではないが、
   試行錯誤の結果、会話体を活用することが、多くなった。


   地の文としては、まだ違和感のある口語も、
   かぎカッコに入れてしまえば、
   現在形以上の生き生きとした表情を見せてくれる。
   違和感もおおいに減った。
                          (pp.155-156)


サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)

サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)


そのとき20代だった俵は、口語を短歌に取り入れ、
今を生きる思いを表現しようと挑戦していた。
切り開かれた領域にプロ、アマチュアが続き、短歌の世界を更新していった。
本書、そして読売歌壇投稿欄(選者に俵を指名できる)で、
その果実の一端を筆者は紹介している。
短歌を詠む技術としてだけでなく、文章を書く技術としても参考になる本だ。


松岡正剛『千夜千冊エディションことば漬』で俵の『サラダ記念日』を取り上げている)